コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

アジア・マンスリー 2015年3月号

【トピックス】
より良い車を求める中国消費者

2015年03月02日 関辰一


近年、中国自動車市場では、性能やスタイル、乗り心地を重視する買い替え層が着実に拡大している。
日本車の良さがわかる消費者層が拡大するなか、日本メーカーはより中国市場を重視すべきである。

■高度化・多様化する消費者ニーズ
中国汽車工業協会によると、2014年の自動車販売台数は2,349万台と前年比+6.9%増加した。内訳をみると、乗用車は1,970万台と同+9.9%、商用車は379万台と同▲6.5%であった。乗用車についてみると、基本型(セダン、2-box)は1,238万台と同+3.1%、SUVは408万台と同+36.4%、MPVは191万台と同+46.8%と増加した一方、クロスオーバー型(軽ワンボックス等)は133万台、前年比▲18.1%となった。

近年の中国自動車市場において、需要構造の高度化が注目される。依然として新規需要が大半であるものの、買い替え層は着実に増加している。買い替え需要の公式統計が無いため、以下では、自動車需要を新規需要と買い替え需要に分解し、それぞれのボリュームを試算する。通常、自動車ストックの一部は耐用年数を過ぎると廃棄され、新たな車に代替される。ここでは、単純化するために、廃棄される台数と代替購入される数が同数であると仮定し、これを買い替え需要と定義する。そうしたもとで、2013年に販売された2,198万台の内訳を試算すると、自動車保有台数は2012年の1億933万台から2013年には1億2,683万台と1,750万台増えていることから、この分が新規需要、残りの448万台が買い替え需要とみることができる。同様に、各年の買い替え需要を試算すると、買い替え比率は2009年の13.4%から2013年に20.4%に上昇したことが確認できる。

買い替え層が厚みを増すということは、消費者の嗜好が低価格車から、性能など車本来の魅力を強みとした“より良い車”にシフトしていることを意味する。一般的に、買い替え層は、車保有の経験が長い分、性能など車本来の持つ魅力を重視する。トヨタの調査によると、初めて自動車を購入する層は経済性、購入価格を重視するのに対して、買い替えの回数が多くなるほど、経済性と購入価格の優先順位が低下し、性能やスタイル、乗り心地を優先するようになる。

中国では、消費者の嗜好変化は、車種の選好にもっとも鮮明に表れている。先述したように、2014年の販売実績ではSUVとMPVが急ピッチで拡大している。SUVやMPVはセダンより平均単価が高い。その分、一度に乗ることができる人数が多く、積み込める荷物も多いため、平日の通勤やショッピングばかりでなく、休日にファミリーでレジャーに出かける際などに大きな価値を発揮する。先進国では、自動車普及率の上昇に伴い、SUVやMPVのシェアが上昇したが、中国でも、そのような需要構造の高度化・多様化がみられる。

こうしたトレンド変化は低価格を強みとする地場メーカーなどにとっては、大きな試練となる一方、品質やアフターサービスに強みを持つ日本メーカーなどにとっては追い風といえよう。しかし、プロモーションや販売網などの不足に加え、日中関係悪化の影響もあり、2014年の乗用車市場における日本車のシェアは15.7%と前年から▲0.6%ポイント低下した。

■展望と課題
今後、需要構造は一段と高度化・多様化すると見込まれる。2013年時点の自動車普及率は11人に1台と、日本の2人に1台を大きく下回る。今後、所得水準の上昇に連動して、中国の自動車保有率は一段と上昇する公算が大きい。これに伴い、買い替え需要が増加し、買い替え比率が一段と上昇すると見込まれる。

では、性能やスタイル、乗り心地を重視する買い替え層は、いつまでにどの程度の規模に拡大するのだろうか。自動車保有率が2020年に5人に1台、2030年に3人に1台、2040年に2人に1台へ高まると仮定して試算すると、買い替え需要はそれぞれ1,200万台、2,100万台、2,900万台に大きく拡大していくと見込まれる。他方、初めて自動車を購入する層の増加ペースは鈍化し、2020年前後から減少に転じる見通しである。低価格のエントリーモデルに対する需要は飽和し、やがて縮小する公算が高い。

日本自動車メーカーの海外展開をみると、これまで欧米を主なマーケットとしてきた。アジアでは、中国にも進出しているものの、東南アジアにおける市場シェアが高く、重心は東南アジアに置かれていたといえる。中国では政府の関与が大きいことに加え、経済性や購入価格を最優先する購入層が急ピッチで伸びる一方、品質やアフターサービスを重視する層の伸びが緩やかであったことを踏まえれば、それは理に叶った判断であったと思われる。

しかし、近年、中国における消費者の嗜好は低価格車から、性能などを強みとした“より良い車”にシフトしつつある。そのような、日本車の良さがわかる消費者層が、今後、厚みを増すことを勘案すれば、日本メーカーは中国市場の重要性を改めて見直す時期にあるといえよう。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ