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日本総研ニュースレター 2014年11月号

企業の社会的価値を評価する

2014年11月04日 渡辺珠子


企業の社会的価値は測定可能か?
 ビジネスのグローバル化の加速に伴い、環境・社会貢献の在り方を見直す企業が増加しつつある。グローバル市場では、経済的価値のみならず、企業が環境・社会に対してどのような価値を生み出しているかに強い関心を持つステークホルダーが少なくないためである。
 ところが、いざ検討する段階になって、自社が何をもって社会的価値を創出したと言えるのか、という課題に戸惑う企業は少なくない。経済的価値と異なり、社会的価値を客観的に説明する手法はまだ一般的でないため、ステークホルダーから評価してもらいにくいのである。実際、日本総研で最近開催したセミナーでも、CSR担当部門の方々から、既存事業が創出する社会的価値の面をどう説明すべきかという質問が聞かれた。
 企業によって生み出す社会的価値は異なるが、価値を測ることは可能であると考える。特にインパクト・インベストメントで活用される手法が、企業の社会的価値の評価方法として参考になると筆者は考えている。収益に加え社会・環境問題の解決を目的とする投資であるインパクト・インベストメントでは、投資された事業が生み出す社会的価値を投資家に報告するための評価手法が発達してきたからである。それらは本来、主に投資家が活用するために開発されたものであるが、他の企業との比較ができる指標や、既存事業なども一つ一つ評価できる手法など、企業自らが社会的価値を評価する際にも適用させやすい特徴を備えているものが多い。

2タイプに分かれる評価手法
 インパクト・インベストメントの評価手法はこれまで様々なものが開発されてきた(*1)が、それらは大きく2つのタイプに分かれる。
 一つは、事前に設定した指標に沿って必要な情報やデータを収集し、社会的価値を評価するタイプである。代表例は、国際的なNPO法人GIINが有するIRISで、既に58カ国で2,400以上の活用例が報告されている(*2)。例えば、新興国や途上国の低所得者層向けの電力供給ビジネスを展開する米国のd.light社では、電力へのアクセス度のほか、人々の活力向上への寄与度などといったIRISの評価指標で社会的価値を評価している。このタイプの指標は無償で提供されるものも多く、また、社会的価値を展開地域や事業分野間である程度比較できるメリットがある。ただし、評価に必要なデータや情報を収集する負担が現場の担当者に課されるデメリットも付きまとう。
 もう一つのタイプは、現場での観察やヒアリング等を通じて、ステークホルダーにもたらされる正の外部経済の要素を特定し、これを社会的価値とする方法である。社会的価値を金銭換算する枠組みを特徴とするSROIは代表的な存在である。英国では、刑務所出所者の再犯防止プログラムへのソーシャル・インパクト・ボンド(*3)の評価手法としてSROIを適用し、再犯防止プログラムの実施で対象受刑者の再犯率が低下することによる政府予算の削減分を「社会的価値の対価(=経済的価値)」として金銭換算する手法を確立した。企業が生み出す社会的価値と経済的価値の関連性を明示したい場合には、有効な手法といえるだろう。SROIは、既存事業や過去のCSR活動に由来する社会的価値の評価にも適用しやすいが、一方で事業ごとに評価を行うために時間がかかり、地域や事業間での比較も行いにくいというデメリットも抱えている。

グローバル市場でより注目される企業の社会的価値
 グローバル市場において、ステークホルダーは社会的価値創出に対する経営陣のコミットメントをより重視するようになった。社会的価値を評価する指標や、その評価プロセス自体を理解することで、ステークホルダーに対してより具体的に社会的価値創出について説明することが可能になる。
 既にいくつかの日本企業では、既存のCSR活動の社会的価値の評価に取り組み始めた。今後は、本稿で紹介したような評価手法を活用し、社会的価値をさらに向上させる施策を行う企業が増えると予想している。

(*1) Dr. Alex Nicholls "Measuring Impact" from "Impact Investment Program" Said Business School, University of Oxford, 2013 によれば、2013年時点で世界で約170の手法が開発されている。
(*2) NPO法人ARUN SEED「社会貢献評価をグローバルな目線で実施する~CSR報告書向上策~」p.11参照
(*3) ソーシャル・インパクト・ボンドとは、公共サービスを提供する民間事業者に対する新たなファイナンススキーム。民間事業者が効率的に事業を行うことで、削減される費用(=予算)を投資家へのリターンに充てることにより、政府や自治体が税負担を増やすことなく公共サービスを提供できる。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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