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日本総研ニュースレター 2010年4月号

スマートグリッド展開戦略 -パッケージで具現化を-

2010年04月01日 松井英章


低炭素社会実現の鍵を握るスマートグリッド
 2009年末のCOP15(気候変動枠組条約第15回締約国会議)は不調に終わったものの、温暖化防止のため2050年までに世界の温室効果ガスの排出量を半減させなければならないという先進国間での合意に変わりはない。
 排出量削減の手段として最初に考えられるのは、おそらく省エネであろう。しかし、例えばテレビ1台あたりの平均的な電力消費量が半分になっても、新興国の生活レベルの向上によって普及台数が2倍になれば省エネ効果は打ち消されてしまう。従って、省エネと併せて、エネルギー源の徹底的な低炭素化(非化石燃料化)が温室効果ガス削減には欠かせない。そのためには原子力発電だけでなく、太陽光、風力などの再生可能エネルギー(再エネ)の抜本的な導入拡大をどのように誘導していくかが焦点となる。
 再エネによる発電が従来の火力発電と大きく異なるのは、需要の大小と関係なく発電することである。電力系統では、需要量と発電量が時間的に一致しなければ大停電に繋がり得るが、再エネの発電出力は基本的に天気任せであるため、需給ギャップを発生させやすい。不足する場合には火力発電で補えばよいが、再エネの発達で火力発電設備が削減されれば調整枠は減る。反対に、発電量が過剰になった際は高コストな蓄電池などで貯めなければ、捨てるしかない。
 再エネの需給ギャップを解消するには、例えば発電状況に合わせて電力需要(例えばエコキュートの貯湯など)の時間を自動的にシフトさせたり、電気自動車(EV)による充電を指示したりする仕組みが必要となる。つまり、電力需給のデータをITでリアルタイムに把握しながら需給をコントロールする技術が、再エネ活用基盤の強化には不可欠となる。この電力と情報の双方向ネットワークを備える賢い電力網のことを、スマートグリッドと呼ぶ。

なぜスマートグリッドが注目を浴びるのか?
 スマートグリッド導入の狙いや方式は各国で異なるが、既に世界各地で約200箇所もの実証実験が推進されている。また、欧米では、技術的に確立されていない部分を含め、先に枠組みを検討しながらスマートグリッドの標準を策定する作業に入っているなど、将来を見据えた世界での競争が活発化している。
 ここまでスマートグリッドが注目を浴びるのは、低炭素社会実現に向けて、街のエネルギー利用におけるオペレーションシステムのような存在になり得るからである。電力系統だけでなく、住宅や地域に設置される太陽電池や家電製品、EVとEVを充電する駐車場の充電設備、さらにビルのエネルギーマネジメントシステムに至る電力の需給状況をリアルタイムに把握するスマートグリッドは、電気利用の最適化を実現させる中心的存在として期待されているのである。
 スマートグリッドから見れば、街全体の電気機器は全てが「部品」である。一連のシステムとしてつながる関連製品は、そのデータ互換性の有無、制御の良しあし等によって競争力が大きく左右されるため、今後、製品群の囲い込み戦略は激化し、国家間・企業間で競争と提携の両極面が見受けられることになるだろう。

早期のパッケージ化で日本の強みを具現化せよ
 日本でも既に経済産業省等を中心に、関連する幅広い業界の代表的企業が集まり、活発な議論が進められている。世界が疾走する中で日本企業が先頭を行くには、多数の主体をまとめ、スピード感をどのように出していくかが課題となる。
 理想を言えば、電力系統から各電力機器までの接続や制御方式を規定する全体的なシステムアーキテクチャのスマートグリッド体系は、トップダウン的に最初から作り上げたいところだが、実際には難しい。そこで、具体的な案件でパッケージアプリケーションを作り上げ、その領域を拡張していくボトムアップアプローチも検討したい。それは、日本が世界トップレベルにある、太陽電池(発電)やEV(充電)の個別の製品技術を組み合わせ、住宅や地域単位での小さなセットごとに最適化させるようなパッケージ商品を作り、世界展開を図るというイメージである。いち早く世界シェアを獲得するためには、このように一定の塊の単位で調整機能を作り上げる手法も検討に値すると考えられる。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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