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日本総研ニュースレター 2010年3月号

水資源問題こそ日本に商機あり

2010年03月01日 石田直美


世界的な水不足と水の再生技術の必要性
 世界的な水不足が大きな問題となってきた。
 理由の第一は、人口増や都市化、新興国の進展による水需要の世界的な増加である。現在、約68億人という世界の人口は、21世紀半ばに90億人にまで膨張するとも予測される。また、都市化の進展やアジアの新興都市・国での水需要は当面上昇を続けるだろう。
 第二は、特に新興国での深刻な水質汚染である。工場排水をはじめ、生活排水や畜産排水、農薬の不適切な利用による汚染が生じている。
 そして第三は、水資源の枯渇である。例えば米国の穀倉地帯では灌漑農業で使う地下水の枯渇が懸念されている。また、気候変動による影響も顕在化してきており、温暖化によるヒマラヤの積雪減少は、約7億5千万人の人々の生活を支える下流のインダス川、ガンジス川、長江等の流量を減少させる可能性が高い。日本でも米どころを支える雪解け水の減少が指摘されている。
 もはや、水資源を川や地下水などだけには頼れなくなった。今後は、海水淡水化や水の再生技術を組み合わせた水システムの需要が爆発的に伸びるはずである。

付加価値の高い水ビジネスを目指せ
 日本は水処理分野で多くの先端技術を有しており、特に膜処理技術では高い世界シェアを誇る。しかし、水処理全体のシステムや管理運営事業のほとんどは欧米の水メジャーが受注しており、日本企業は、膜等単体設備の販売だけに止まることが多い。EPC(*)や管理運営全体で100億円の案件でも、膜だけなら数億円程度のビジネスにしかならない。
 そこで近年では、高い収益を求め、システム全体や管理運営までスコープを拡大して受注を目指すようになった。特に、国内で既にノウハウが蓄積され、国際競争力の高い「工場排水を効率的に高度処理して場内で再利用するシステム」への期待は高い。

技術以外の取り組み
 再生水分野は、有望な市場と見た外国企業の参入も相次いでいる。特にGEは膜処理技術を有する企業を買収するなど、競争力の強化を図ってきている。日本企業が現在の強みを維持するには、水質に応じて最適な膜処理設備を組み合わせるシステムなどの技術強化はもちろん、技術以外にも以下のような取り組みが重要となる。
 第一は、ソリューション提案によるスペックインである。日本企業は顧客から仕様を聞いてシステムを組み立てるという発想が多いが、これからは顧客から仕様が出る前に排水の特徴を把握し、こちらから最適な水処理システムをソリューションとして提案することが受注競争には欠かせない。これは顧客側に入り込むことで、仕様そのものを自社に有利に規定してしまう戦略であり、海外のライバル企業では従前からよく行っている。
 第二が、サービスメニューの開発である。これまで多くの日本企業では、設備納品型のビジネスを志向してきた。設備を買い取って自前で運営することが多い日系の顧客企業に対してはそれでよかった。しかし、海外では、水処理企業が設備投資を行い、排水処理や水リサイクルの量に応じてサービスフィーを受け取る「水売り」といわれるサービス形態も多い。設備納入ではなく水売りになると、効率的運転や維持管理の方法に加えて、性能を保証する範囲やリスク管理、ファイナンス等、幅広い運営管理ノウハウが必要となる。日本企業は、顧客ニーズに合わせて多様なサービス提案ができるよう、こうしたノウハウを蓄積しなければならない。

環境への貢献と収益の両立
 今まで海外での水ビジネスは水道事業が主であり、この市場では150年もの歴史を持つヴェオリアなど世界の水メジャーが圧倒的に強い。しかし、工場排水の処理・リサイクルを伴う再生水による水道事業は、日本の技術力を活かしたビジネスとして非常に有望な分野である。日本企業は、膜の単体技術だけでなく、ビジネスモデルにも磨きをかけることで、貴重な水資源の有効利用という環境への貢献と一層の高収益の獲得を目指して欲しい。

(*)EPC(Engineering, Procurement and Construction):設計・設備機器の調達・据付工事および性能試験まで一貫して行う請負形態


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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