コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

日本総研ニュースレター 2008年8月号

医薬品業界の新たな潮流
-Closed Loop Marketing-

2008年08月01日 木下輝彦


 ここ数年の国内製薬業界で目立つのは、相次ぐ大型合併や世界的ジェネリック医薬製造業のTOBなど、主に新薬開発に向けた研究開発費を確保し国際競争力の向上を図ろうとする一連の動きである。しかしこうした派手な買収合戦などと並行して、医薬品の価値を個々の医師・患者に応じて正しく届けるためのマーケティング強化の取り組みがここ1年で急速に活発化してきた。
もともと医薬品はその効果と安全性のバランスで医師や患者に受け入れられるものである。しかし降圧剤・睡眠薬のように市場が成熟し、効果が似通ったものがいくつも現れると、医師は何をもって処方するのか、患者も何を求めて服用し続けるのか、という明確な価値判断がつきにくくなる。これまでは自社製品担当者(プロダクトマネジャー)の用意した資料を手にした営業担当者(MR)が情報を伝える役を担っていたが、属人的なスキルに依存するところがあり、また、紙媒体の資料には表現力の限界があり、医師や患者からの反応を取り込む柔軟性にも乏しかったのが実情である。
 そこで手書き文字や音声を認識する機能を持つパソコンを活用したClosed Loop Marketing(CLM)の活用が急速に進むようになった。MRがパソコンを資料として用いながら医師とのやり取りをその場で入力し、リアルタイムで製品担当者にフィードバックする仕組みである。



 CLMの導入によって、①薬効や手術方法等をビデオ映像に取り込んだデジタルコンテンツ作成・説明により、短時間・的確・精緻な薬効説明が可能となる、②臨床データ、学術情報なども医師のニーズに合せて即座に提示することができる、③MRがいつ、どの医師に、どのコンテンツをどんな時間配分で使用したか、医師はどんな質問をしたか等の状況がリアルタイムで社内にフィードバックされ、より適切な医師や患者に向けたコンテンツやメッセージ分析・作成が可能になる、等の効果を見込むことができる。



 特に既存医薬品の価値を最大化する活動としてCLMは重要性を増す動向だ。現在、国内製薬各社でも調査・試行が始まりつつある。
 このCLMにより、口頭と印刷物では伝えにくかった正しい医薬情報を、動画像で医師に明確に伝えることが可能となり、患者の正しい服用に繋げることができる。同時に印刷媒体の削減、MRによって伝わり方が違っていたメッセージの標準化などの実現が期待できる。
 欧米の医薬製造業では、CLMをMRの平準化の手段としても位置づけている。欧米医薬製造業と比較すると、相対的には「属人的な取り組み」を行う国内製薬各社のMRが規格化・標準化を受容するかどうか、また属人的営業を受け入れてきた医師がどこまで受容するかが今後の普及への課題となりそうだ。

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ