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日本総研ニュースレター 2008年8月号

国内CDM制度 -概要と今後の展望-

2008年08月01日 長谷直子


 G8は洞爺湖サミットで、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を少なくとも50%削減する目標についてUNFCCC(国連気候変動枠組条約)の全締約国の採択を求めること、さらに野心的な中期の国別総量目標を実施することで合意した。
 今後、日本が率先して地球温暖化問題に立ち向かい、低炭素社会の実現を図るには、新エネルギーや省エネルギー等の個別施策の推進だけでなく、排出量取引や環境税等の経済的手法導入についての具体的な検討も欠かせない。
 サミットに先立って発表された福田ビジョンでは、排出量取引の国内統合市場の試行的実施を、今年秋、できるだけ多くの業種・企業が参加する形で行うことが明記された。ここでいう排出量取引の国内統合市場とは、環境省の「自主参加型国内排出量取引制度」と経済産業省の「国内CDM(クリーン開発メカニズム)制度」を組み合わせた排出量取引制度と考えられている。
 しかし、2つの排出量取引制度の統合は容易ではないだろう。排出量取引は導入の是非や制度案の検討をめぐって、官邸、経済産業省、環境省で激しい議論が交わされた経緯がある。
 特に、EUがすでに導入し、環境省が推進しているキャップ&トレード(個々の企業に排出枠の上限を課す方式)に対しては、一部の産業界から「生産統制になりかねない」「産業の海外流出を招くのではないか」等の懸念が示されてきた。そのため、環境省の「自主参加型国内排出量取引制度」は、企業が任意で排出枠を設定できる「自主キャップ型」となっている。今後は実効性が問われることになるだろう。
 一方、これまで経済産業省は年間数億円の補助金を活用して、中小企業のCO2削減設備の導入を後押ししてきたが、補助金による支援では財政的な制約もあり、CO2削減量の限界があった。そこで、民間、特に大企業が中小企業に資金・技術を提供し、中小企業での設備導入に弾みをつけようというのが「国内CDM制度」である。この制度は、「削減努力して枠が余った分は取引できる」というベースライン&クレジット方式を採用しており、資金と技術を提供した大企業は、中小企業が削減したCO2を自らの排出権として獲得できることになっている。キャップ&トレードのように排出量の上限を設定する方式ではないため、産業界の支持を得やすい。本年6月には、100以上の産業界関係者が参加する推進母体が設置されるなど、官民一体となって本制度の具体化・普及を図るための体制が整えられつつある。

 日本の大企業は現状でも省エネが相当程度進んでいるため、CO2削減余地は限られている。排出量取引制度が導入されれば、最終的に海外から排出権を購入せざるを得ない企業が出るだろう。一方で、中小企業はCO2を削減するための資金や技術面の課題を抱えているが、CO2削減余地は十分ある。中小企業のCO2削減余地を生かして大企業が技術や資金面で支援を行っていくことは、大企業と中小企業の双方にメリットがあると言えよう。また、海外からの排出権の購入で技術や資金を流出させるのではなく、国内で活用することは、日本の国益にもかなう。技術とものづくりが中心の日本の産業に見合った制度として、国内CDM制度が確立されることを期待している。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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