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日本総研ニュースレター 2008年9月号

地方財政健全化と自治体のPRE(公的不動産)戦略

2008年09月01日 日吉淳


 昨年、財政再建団体に転落した夕張市の姿は、他の多くの地方自治体にとって決して対岸の火事ではない。地方債などによる借入金残高が全体で200兆円を突破し、財政の硬直性を表す経常収支比率も平均で90%を超えるほどの危機的な財政状況に地方自治体は陥っている。
 政府は昨年6月施行の「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」によって地方自治体への監視を強化し始めた。また、総務省は地方自治体に、自治体版のB/S、P/Lである「財務4表」の整備を義務付けた上、今後3年以内に具体的な資産・債務改革に取り組むよう求めており、いよいよ地方自治体は自らの力で財政健全化を図る必要に迫られてきた。
 地方自治体の財政を苦しめる要因の一つとして、「行政サービスは自らの保有資産を使って行う」という自前主義が挙げられる。固定資産税がかからず、また一般会計において減価償却の概念を持たない地方自治体は、維持管理費用をあまり意識せずに資産を増やし続けてきた。国土交通省の資料によれば、国や地方自治体が所有する公的不動産は454兆円と推定されており、民間法人所有不動産の総額に匹敵する規模となっている。しかし民間企業と異なり、市場からの圧力がない国や地方自治体は資産の効率活用への意識が乏しく、公的不動産を必ずしも有効に利活用してこなかった。その結果、あまり使われない施設も含んだ大量の公共施設の維持管理費や建て替え費用の増大が、ますます財政を悪化させているのである。



 キャッシュフローを重視する民間企業では、不動産を単に保有するのではなく、重要な経営資源として積極的に活用し資産効率を上げる「CRE(コーポレート・リアル・エステート)戦略」によってB/Sを改善し、企業価値向上を狙う動きが活発になりつつある。
 このCRE戦略を公的不動産に応用したのが「PRE(パブリック・リアル・エステート)戦略」である。PRE戦略も公的不動産の資産効率を高めて保有コストを最小限に絞り、資産保有コストに対する行政サービスの効率性(VFM:バリュー・フォー・マネー)を高め、最終的には自治体におけるROA(総資産利益率)を改善することを目的としている。
 具体的には、これまで各部局が縦割りで保有していた資産の有効利用度やLCC(ライフサイクルコスト)を、部門横断的に一括して評価することから始める。この評価結果によって、継続所有、積極処分、有効活用など資産活用方針を類型化した上で、処分や資産の入れ替え、リニューアル投資などを行い、資産価値の最大化や財務改善、行政サービスの効率性向上を目指す。2006年には新潟県が地方自治体として初めて資産の証券化を行い、東京都北区にある職員宿舎用地から簿価の7倍以上にあたる25億円を調達した(図上)。また、青森県でもLCCを踏まえて30年間の財政負担を考慮した資産戦略および個別施設の5年間の「中期実施計画」を策定し、利用調整・計画策定から実行のサイクルを実践している。
 PRE戦略はまだ一部の先進自治体で始まったばかりであるが、国土交通省も研究会を立ち上げるなど普及啓発に力を注ぎ始めた。PRE戦略の普及は地方自治体の財政健全化だけでなく、自治体が抱えていた不動産が新たに供給される不動産市場の活性化にも大きく寄与するものと期待されている。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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