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日本総研ニュースレター 2009年4月号

「個」を洞察し研究開発テーマを再構築せよ

2009年04月01日 時吉康範


研究開発テーマの「見直し」が加速
 昨年後半からの急激な事業環境の悪化に伴う、事業撤退や製造部門の人員削減が後を絶たない。研究開発部門ももはや聖域ではなく、あえて言えば、研究開発テーマを潰すことを目的とした「見直し」が活発になってきている。
 しかし、先にリストラを実施した研究所の事例を見るまでもなく、コストカッターの思想で研究開発テーマを潰し、ひとたび技術資源を枯渇させてしまえば、それを復活させるのは容易ではない。
 「本当は研究開発テーマを立て直して発展させたい」が経営トップやマネジメントの本音であるのは間違いないが、現在行われていることの多くは、方向が逆を向いている。

一般的な研究開発テーマの見直しアプローチとその問題
 一般的なアプローチでは、評価が主な仕事になっている。市場性や競争力の指標で、現在の研究開発テーマの将来性を「そのまま」評価し、ポートフォリオを作成して、Go、またはNot Goを判断する。
 簡単でよいのだが、このアプローチで生き残るテーマは想像がつく。つまり、短期的に収益に貢献する「目に見える」テーマだけが残る。それらは事業部の既存製品あるいは既存製品の延長にある製品の課題を解決するテーマや、商品化しても大規模な収益貢献は期待できないテーマだ。
 そもそも、事業性の視点から淡々と評価された研究開発テーマばかりに取り組むことが、誰もが納得できる本来の研究開発なのだろうか?見方を変えて作り直せば活かせるテーマをも潰してしまってはいないだろうか?疑問が残る。
 実はこのアプローチは、テーマの発展性を考慮に入れていない。我々の本当の問題は、目先のテーマに目を奪われ、中期的にやるべきことを直視していない。あるいは、やるべきことだと分かっていながら、出口のアイデアがない。あるいは出口は見えているが打ち手がない。このあたりのはずなのに、最も解決が難しいところを放棄しているのだ。
 結局、ほぼテンプレート化された一般的な評価指標と評価プロセスに当てはめてスクリーニングをしても、技術者はもとより、見直しを企画したはずの経営トップやマネジメントですら納得感を得られないのではないか?

「個」の再構築で研究開発テーマを見直せ
 重要なのは研究開発テーマの成功確率を上げ、収益を高めていくことだ。そのためにマネジメントは、研究開発テーマそのものと同様、各テーマを担当する技術者個人を深く理解する必要がある。特に、新規テーマ探索においては、探索を実際に手がける人材が成否のカギを握る。
 「創造は個に依存し、組織が育成する」。つまり、創造的な開発ができそうな技術者を見つけ出して開発力を高め、事業化までマネジメントが導く、ということだ。
 よい研究開発テーマさえあればそれでよしとする向きも多いが、実際はどれほどいいテーマであっても、テーマありきでは誰もやらないし、やってもうまくいかないことが多い。また、研究所のビジョンやミッションも重要だが、抽象概念を実践よりも重視すると、言葉遊びあるいはマネジメントの自己満足に終わりがちだ。現場からすれば手触り感のない、壁に張ってあるスローガンの類が増えるだけに過ぎない。
 筆者の経験上、技術者の開発力を高めながら研究開発テーマを再構築するためのポイントは、以下の三つだ。
(1) マネジメントと技術者が直接意見をぶつけ合う機会を設ける
(2) 事業化の観点から、現在のテーマを発展的に見直す
(3) 各テーマのリーダー自身が、主体的に自らのテーマを再考して、提案する
 こうした活動を通じ、組織全体の課題を2ヵ月程度推察してみると、見えてくることが多い。
 筆者がこれまで手がけ、上記を実践してきた大手のセンサーメーカーや印刷会社、化学メーカーなどでも、「目先の仕事にとらわれていた技術者の視野が広がり、高い視点からテーマを再提案できるようになってきた」との実感を得られているようである。最も重要な収穫は、画一的な見方をしてきたマネジメントが「気づき」を得て、技術や技術者をどう育てていくかを本気で考え出したことで、これは今後、研究開発の好循環を生み出す礎となるだろう。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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