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日本総研ニュースレター 2010年4月号

新公益法人制度と特例民法法人の経営改革
~非営利法人の経営戦略を問い直す~

2010年04月01日 谷口知史


新公益法人制度の意義
 2008年12月、「民が担う公益の実現」を理念として、公益法人制度改革3法と新非営利法人税制が全面的に施行された。新制度の対象となる特例民法法人(社団法人、財団法人)は、いわゆる第3のセクター(非営利組織)に属し、国・地方自治体の外郭団体として重要な使命・役割・機能を持つ法人も多数存在している。新制度を最大限に活用し、これらの非営利公益セクターを活性化させることは、今後の我が国経済社会の健全な発展にとって重要なステップとなるものとして期待を集めている。

現下、特例民法法人が直面している課題
 新制度の施行によって、特例民法法人は、
  ①公益認定を受けて公益社団・財団法人となる
  ②一般認可を受けて一般社団・財団法人となる
  ③組織再編を含めて他の法人類型へ転換する
  ④解散する
のいずれかの対応を、2013年11月末までの移行期間内に行う必要がある。しかし1年が経過した現在も、各法人の動きは極めて鈍い。移行初年度の実績は、公益法人認定申請が275件、一般法人認可申請が71件にとどまり、対象となる全国約2万5千に上る法人の1%強に過ぎなかった。
 移行作業が進まない主因は、公益認定・一般認可ともに、事前の想定以上に要件充足の難度が高いことにある。例えば、公益認定の財務基準では、「公益目的事業比率が50%以上」「公益目的事業に係る収支が均衡」等が移行後も継続的に求められており、現状では対応困難な法人が少なくない。また、理念は公益法人に相当するものの、財務基準の充足が難しいために、税制上不利な一般社団・財団法人を選択せざるを得ない社団・財団法人も数多い。

新制度対応を経営改革に結び付けられるか
 今回の新制度では法人の継続性が重視されたため、公益認定・一般認可のいずれの場合も、特に財務基準が厳しくなった。結果として、財政基盤が弱い法人が新制度対応を行うには、自立した経営を続けられることを証明するための経営改革を同時に行うことが必須となっている。
 例えば、教育や文化、体育分野での助成金制度を主な事業とするA財団は、今回の新制度対応を機に事業の大きな見直しを図っている。新しい経営ビジョンでは、事業領域を環境・福祉分野にまで伸長し、活動エリアを他府県に拡大する計画を立てているが、その実行は税制で優遇される公益認定ではなく、一般認可への志向を意味する。一見、不利な選択のようだが、公益法人に伴う諸制約を受けずに経営資源を活用するための、中長期的な成長を企図した合理的な戦略である。さらにA財団では、それと併行して公益認定を受けるための経営戦略も策定済みで、いずれの選択肢を採るにせよ、法人の存続は確実な状況にある。
 一方、奨学金制度を主な事業とするB財団は、設立母体である企業の株式配当収入に大きく依存する経営を40年以上続けてきた。しかし母体企業の成長鈍化と共に赤字が続き、さらに申請書類の整備に注力するあまり、新制度に対応できる経営ビジョンと経営戦略を打ち立てるには至っていない。既に「財務状況が健全である」「公益目的事業に係る収支が均衡する」という要件を充たすには、中核の奨学金事業の譲渡も検討せざるを得ない状況にあるため、「経済的な事情で修学が困難な学生・生徒を支援する」という設立理念とは大きく異なる事業構成となる可能性が高い。

事業ポートフォリオの再構築は不可欠
 二つの財団法人は、公益認定・一般認可のいずれにも欠かせない財務力を強化する経営戦略の有無が明暗を分けている。しかし、民間企業とは異なり、これまで経営改革を強く意識する機会に乏しかった特例民法法人にとって、経営改革レベルの経営戦略の策定・実行は容易ではなく、多くの場合、改善レベルの個別対応に追われている。
現在の法人がそのままの形で新制度にスライドするのは、予想以上に難しいケースが多い。つまり、新制度の要件を充足するには、新たな経営の理念とビジョン、目標を明確化した上で、事業ポートフォリオと経営管理体制の迅速な再構築が強く求められている状況なのである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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