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2005年10月07日

欧州統合の展望 ~直接投資ルートで進展する域内格差の平準化~

要旨
1.  近年のEU(欧州連合)は、1999年1月の単一通貨ユーロの導入、2004年5月の中・東欧10カ国の新規加盟と、順調に統合プロセスを進めてきた。しかし、05年入り後は、フランスとオランダによるEU憲法条約の批准否決を契機に、EUの先行きに関する懐疑的な見方が拡大。本レポートでは、この欧州統合の今後の帰趨を展望。
2.  欧州統合には、①市場統合(93年完成)、②経済・通貨統合(99年完成)、③政治統合(今後検討)の3つの段階が存在。また、04年5月の東方拡大により、経済圏としてのEUは、アメリカに匹敵、ないしはこれを上回る規模に到達。
 欧州統合のそもそものねらいとしては、潜在的な競争相手としてのアメリカの存在を念頭に、①市場統合によって、(1)域内経済活動の効率性を向上させることや、(2)規模の利益を享受すること、また②市場統合の補完として経済・通貨統合を実施することにより、統合の効果を最大限発揮させること、といった点にあり。
3.  EU自身としては、統合の計画段階では、その具体的な効果の柱として、①ミクロ経済的な効率性の向上、②マクロ経済面での安定性の向上、③域内各国間・各地域間での公平性の向上、の3点を意識。統合のこれまでの成果を総括すれば、①域内企業行動の面などから、ミクロ経済的な効率性が向上したことが確認できるほか、②域内マクロ経済指標の収斂が進んでおり、安定性が向上したことも確認可能。
4.  もっとも、近年では、EU加盟国内における経済成長ペースの二極化という、統合の負の側面が表面化。その背景には、①EUの枠組み自体が、元来、一定の経済力格差が存在する国々の間での経済統合を指向するものであるため、市場統合により、各国の経済活動の一体化が進展すれば、所得水準等の格差を平準化しようとする圧力が必然的に働き、その結果、高所得国にはマイナス、低所得国にはプラスに作用すること、②ユーロ圏の場合、金融政策の運営主体のECBへの一元化に加え、EU全体としても財政規律メカニズム(財政安定協定)が存在するため、加盟各国が自国の景気動向に応じた経済政策運営を行って、域内格差の平準化圧力の緩和を図る余地が乏しくなっていること、の2点が存在。
5.  EUの場合、93年の市場統合完成後も、加盟各国間での労働力移動は不活発な状態が継続。そのため、経済成長ペースの二極化の主因である経済格差の平準化メカニズムは、主として、産業競争力が高く、単位当たり労働コストの高い国々(ドイツやオランダがその代表)の製造業企業が、労働コストの安い国(アイルランドやスペイン、中・東欧諸国)に生産拠点を移設するという、「直接投資ルート」で進展。99年のユーロ導入や、2004年の拡大は、こうした格差平準化圧力に一段と拍車。その結果、直接投資の受入国側の経済成長率は、輸出主導で加速。一方、ドイツ等の先進国側では、設備投資は近隣他国に振り向けられ、つれて雇用は縮小、所得も押し下げられるほか、近隣国から輸入した半製品を加工して輸出する比率が高まるため、単位当たり輸出の付加価値は低下。結果的に、経済成長率の低下傾向が顕著に。
6.  EUにおける、このような直接投資ルートでの経済力格差の平準化は、足許、やや弱まっている模様。もっとも、各国間には、なお相当な経済力の格差が残存していることからすれば、今後ともその平準化圧力は持続する見込み。それがどのようなプロセスや規模で生じるかは、新規加盟国の今後の市場統合の進め方や、EU内の先進国・新規加盟後発国の側の双方で、労働市場改革がいかなる形で進展するかに依存。
7.  EUの今後を展望すれば、近年の「ユーフォリア」ともいえる時期を経て、これからは、統合のペースをスロー・ダウンさせる局面に入る可能性が大。具体的には、既に完成している経済・通貨統合の枠組みは堅持するものの、政治統合への動きは封印されるほか、新規加盟国の市場統合(労働力移動の完全自由化を含む)は先送りされ、ユーロへの新規参加国もごく少数にとどめられる、というシナリオの可能性が最も高くなると予想。
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