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日本総研ニュースレター 2012年5月号

新興国インフラ市場への参入課題と機会
~クラウドによるポジション獲得への期待~

2012年05月01日 木通秀樹


都市の価値設計で信頼関係を築く
 低炭素都市の発達とともにスマートインフラ市場は拡大が続いており、世界の市場規模は今後20年で4000兆円に達するとも言われている。特に、中国では200件近い計画が進められるなど、アジア等の新興国で伸長が著しく、日本の先進インフラ企業としても、この市場への期待は高い。
 低炭素都市を開発にあたって地方政府等の都市開発者が求めるものは、都市間競争に優位となる都市の差別性の確保である。このためには、差別性を実現するための都市の価値を設計し、上位計画に組み込む必要がある。現在、日本企業はスマートインフラを差別性として、都市開発者に対し、開発初期の計画段階からのアプローチを行っている。しかし、スマートインフラ技術を導入すれば都市の価値が上昇するとは地方政府も考えていない。このため、都市の価値設計を行った上で、その実現上のコア技術となるスマートインフラ技術を的確に抽出することで、都市開発者との信頼関係を構築する必要がある。こうした技術のみが上位計画に組み込まれることになる。

インフラ運営ポジションへの参入と課題
 高度な都市インフラの中核となるのは、インフラの情報連係を行うマネジメントシステムである。環境変化に柔軟な仕組みを創り、高度な設備の能力を最大限に引き出すことで、差別性ある低炭素都市が構築できる。
 都市の価値設計を行った者がマネジメントシステムを構築することで、実効性ある低炭素インフラを実現できる。このマネジメントシステムの開発に優位性を持つ日本企業の中には、現在、自ら投資することを考慮しながら低炭素インフラのマネジメントシステムを現地に導入させることで、事業参入を進めようとしているところもある。
 さらに、導入した管理システムの運営に参入し、長期的に携わることで、「都市の運営パートナー」のポジションを獲得し、最終的には、事業規模の大きい低炭素インフラ設備(高効率発電機等)を売り込む戦略を展開しようとしている。
 しかし、交通やエネルギー等を対象とする低炭素インフラマネジメントシステムは規模が大きく、場合によってはシステム開発費が数十億円にも達する場合がある。都市開発者にとって、本格的な設備導入前のシステム投資としては負担が大きい。また、開発の初期段階では都市の需要規模が不明確であるため、日本企業にとっても投資の意思決定が難しいのが現実である。

クラウドサービスのインフラマネジメントへの展開
 こうしたなか、クラウドサービスの技術的な発展によって、マネジメントシステムの提供と運営への参入が容易になる可能性が高まってきた。
 これまで都市インフラは、信頼性が第一に求められ、専用システムが導入されてきた。制御システムも専用システムの設置が当然とされてきた。しかし、情報通信の処理速度および信頼性の向上を背景に、昨年からは制御システムに採用される動きが出てきている。代表例がBEMS(ビルのエネルギー管理の制御システム)である。ビルにはセンサーや操作機器、通信機器等だけを設置し、システムは上位のクラウドに構築する。この際、システムコストが一桁低くなるため、システム投資リスクを大幅に低減することができ、「都市の運営パートナー」ポジション参入のハードルを下げることができる。今後のスマートシティの開発では、都市の統合的なマネジメント、都市の発展段階に応じたシステムの拡張性、民間への運営委託等による高い効率性の確保を低コストで実現できるクラウドサービスが主流となるはずである。

クラウドサービスによるノウハウ流出防止
 クラウドサービスの効果は、コスト削減によって、新興国の「都市の運営パートナー」というポジション獲得の可能性を広げるだけではない。
 従来のようなシステム販売の方式では、システム開発資料などから省エネや設備管理などの価値の高いノウハウが流出する恐れがある。しかし、ノウハウとクラウド化を融合させてサービスとして提供すれば、システムはブラックボックスとなり、ノウハウ流出防止も期待できる。クラウドによって、市場参入ポジション獲得への道が広がる可能性が出てきた。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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