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日本総研ニュースレター 2011年8月号

東日本大震災からの復興事業にPFI手法の積極的活用を

2011年08月01日 日吉淳


求められる機能回復と逼迫する財政
 東日本大震災から5カ月近く経った今も、復興は遅れている。瓦礫除去や道路、水道等のインフラ復旧事業では、補正予算等を投入し、至急の機能回復が求められる状況にある。しかし、すべての復興事業を国や自治体の財源で賄えば、ただでさえ苦しい財政を一層逼迫させてしまう。
 一方で、わが国の個人金融資産は総額1500兆円ともいわれ、この厚い民間資金を復興事業に直接投入できるスキームは大いに検討されるべきである。中でも、PFI事業は公共事業における民間資金の活用を念頭においた事業手法であり、震災復興事業での活用が期待される。

PFI活用で、民間資金とノウハウによる大規模開発が可能
 公会計上、公共事業の実施には、「計画策定」「設計」「施工」「管理運営」といった事業段階ごとに毎年度の予算請求と議会承認が必要となる。一方、PFIではこれらをまとめて一括発注できるため、事務処理の効率化が図れる。
 さらに、PFI事業と一般の民間の都市開発事業を関連づけて実施すれば、インフラや都市施設を含む基盤整備事業と民間都市開発の複合化が実現できることに加え、避難所や防災拠点にもなる中高層の公共・民間複合施設の整備なども可能となる。震災で貴重な人員や経験知が失われたなかで、震災処理に忙殺される自治体にとって、事務コストを削減しながら民間の資金や人材、ノウハウ等を積極的に活用し、大規模な開発と運用が可能となるPFI事業は、復興のための有力なスキームといえる。
 ただし、PFI事業の開始には、民間事業者の公募、選定から契約の手続きに最低1年~1年半を要する。そのため、道路や港湾等のインフラ復旧や仮設住宅の建設、学校の再建等、生活再建に至急必要な事業には向かない。また、一般にPFI事業は、事業提案やファイナンスの組成に手間とコストがかかることから、事業規模が小さいと成立しにくい。
 PFIは被災地での最低限の生活が充足された後に必要となる施設、具体的には文化ホールや図書館、生涯学習施設等の教育文化施設のほか、比較的時間をかけて検討する高度医療機関の再整備等に適したスキームといえる。
被災地におけるPFIの推進のため支援機関の創設
 しかし、被災地である東北地方においてPFI事業の実施実績は必ずしも多くない。内閣府によると、平成21年度までに全国で実施された366件のPFI事業のうち、被災地での実施数は20件強にとどまる。つまり、発注側も地元業者も経験がほとんどないため、現状のままPFIを推進すると県外業者ばかりが受注することになりかねない。
 そこで「東北復興PFI支援機関」を設置して情報を一元化し、広域事業のコーディネートや民間事業者の参画支援等を行うことを提案したい。想定する機能は次の3つである。
 支援①:被災地からの情報収集と仕分け
  公共施設の整備ニーズに関する情報を集約し、PFIに適する事業、適さない事業(直営事業)の仕分けを行う。
 支援②:PFI事業の支援
  PFI事業に適すると考えられる事業について、事業計画の策定、民間事業者の公募・選定、契約業務の支援を行う。
 支援③:民間事業者のPFI事業への参画支援
  PFI事業は、民間事業者の参画が不可欠である。特に、地元の民間事業者が事業へ参画しやすいよう、民間事業者に対するノウハウ支援を行う。

支援機関の設置による復興事業への効果
 自治体を横断してコーディネートできる支援機関の役割は大きい。例えば、被災した図書館を各自治体が個別に再建する場合の事業規模は数億円程度であり、PFI事業としての成立は難しい。しかし、複数自治体が共同で再建すれば、事業規模が数十億円に上ることになり、図書館PFI事業の組成が可能となる。さらに、こうして広域で一括委託することで、個別に業務委託先業者や指定管理者を選定する場合に比べ、建設費・運営費を合わせて10%程度のコスト削減が期待できる。
 この支援機関では被災地の民間企業、特に建設業者がPFI事業に取り組む支援も行う。PFIを震災処理ばかりでなく、震災復興予算の消化が一巡した後も、地場企業が新たなビジネスとして活用し、地域の雇用確保や活性化につなげられるようにすることが重要である。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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