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日本総研ニュースレター 2012年10月号

医療機器産業のグローバル競争力強化

2012年10月01日 木下輝彦


日本企業のグローバル競争力は低下傾向
 日本の医療機器産業は、環境エネルギー産業と並んで、世界的な競争力を有し、かつ成長ポテンシャルを持つ数少ない産業の一つである。国内市場は約2兆4,000億円と米国に次ぐ世界第2位の規模を持ち、年平均成長率約5%と他産業に比べて堅調な市場といえる。営業利益率も20%前後に上る高水準であることから、弱電、精密機器、化学等の異業種からの参入が引きも切らない。
 しかし、売り上げや利益では堅調に見える日本の医療機器産業は、グローバル競争力では低下傾向にある。その兆候は国内でも見られ、例えば国内市場での日本企業のシェアは、ここ20年で20%程度低下している。特にペースメーカー等の生体機能補助機器のように、医療事故等リスクが高い製品でのシェアは約半減の状況である。レピュテーションリスクを恐れてこの分野への参入をためらう日本企業を尻目に、欧米企業がシェアを着実に奪ってきている。
 さらに、MRIやCTのように、技術的には優位な画像診断機器でも25%程度シェアを落としている。円高が続くなか、欧米企業に比べコスト競争力が劣ることの影響は大きい。

市場別にリスク・コストを見極め、新興国展開モデル構築を
 これらの課題は、開発・製造等提携によるリスク分散や、海外生産によるコスト低減の実現等で解決可能であり、競争力は回復できる。
 ただし、今後の国内市場には、従来のような高い成長は期待しにくい。医療機関数は減少し、地域連携・機能分化の促進で医療機器が集約されるからである。高齢化で医療機器のユーザーが増えるようにも見えるが、少子化のため母数である人口自体が減ってしまう。先進国がほぼ同じ状況であることを踏まえると、医療機器産業の成長には、新興国を中心としたグローバル展開が必須ということになる。
 新興国展開での主戦場は、「量産品市場」となることが予想される。例えばGEヘルスケアでは、中国に普及用(低価格)レントゲン機器の開発拠点を設置し、ボリュームを稼いでいる。量産品市場における知財漏洩リスクは、現地政府の巻き込み等による防止対策を打つことになるが、先端技術は少ないため、あまり神経質になる必要はない。
 ただし、いたずらにリスクを許容し、コスト低減を図ればよい、という話ではない。各企業としての競争優位性を明確化し、継続実現できるビジネスモデルに向けて、「リスクやコストの打ち手の整合性」を確保することが不可欠である。
 ハイスペック市場が出現・成長するであろうインドやインドネシア等の次世代市場戦略も重要である。例えば、オリンパス(内視鏡事業)やテルモ(カテーテル等インターベンション、血液事業)のように、先進国の主要医師を巻き込んで開発した製品をハイスペック市場に投入し、高コストでも高価格で成功するパターンもあり得る。新興国で開発・製造することによる知財漏洩リスクをかなり厳密に管理する必要はあるが、高コストでもビジネスが成り立つ日本市場で育った日本企業が得意なビジネスモデルの一つであり、いち早く展開できれば勝機は訪れるだろう。

これからのグローバル競争の成功の鍵は大胆さとスピード
 日本企業のはるか先に参入し、大規模投資を行ってきた欧米企業を相手とする競争は長期戦とならざるを得ない。ここで戦い抜くには、正面から戦うのか、それとも直接的な競争を回避して自社技術優位性を活かせる分野だけで戦うのか等、戦略を予め明確にしておくことが肝要である。
 現在、日本の医療機器メーカーはこぞって中国をはじめとする新興国展開のスピードを高めている。しかし一方で、新興国展開で売上や、特に利益を成長させている日本企業はほんの一握りに過ぎない。その主な理由として、「スピード(進出タイミングおよび意思決定)の遅さ」、「投資の少なさ」、「高付加価値製品を中心とする製品ラインナップの狭さ」が挙げられる。共通背景として「日本を主戦場として日本流の慎重な意思決定を行ってきたこと」がある。今後は、新興国の市場状況を肌で感じる意思決定者が、そのスピードに対応し、成長に向けての投資を、特に低コスト品開発・製造に向けて加速させなければ、グローバル競争に敗れてしまうことは必定である。
 いずれのビジネスモデルを採用するにせよ、グローバル競争における共通成功の鍵は、「明確な自社戦略に基づいて、進出や事業展開の打ち手を大胆かつスピーディーに意思決定すること」である。慎重に検討している間に、欧米企業にデファクトを押さえられる、というこれまでの失敗を繰り返してはならない。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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