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アジア・マンスリー 2015年2月号

【トピックス】
原油価格の下落により恩恵を受けるアジア経済

2015年02月02日 熊谷章太郎


2014年秋口以降の原油価格の急落は、タイ、シンガポール、韓国など、GDPに対する原油輸入依存度の高い国を中心にアジア経済に総じてプラスの影響をもたらす。

■原油価格は3カ月で約5割下落
2014年秋口以降、①ウクライナやイラク情勢に対する過度な緊張の後退、②世界経済の低迷に伴うエネルギー需要見通しの下方修正、③世界的なドル高、④11月末のOPEC総会での減産見送り、などを背景に原油国際価格の下落傾向が続いている。原油先物相場の代表的な指標であるWTI(West Texas Intermediate)期近物の価格は、2014年前半の1バレル=100ドル前後から本年1月上旬には1バレル=50ドルを割り込む水準まで低下しており、アジア各国通貨建でみた価格も過去3カ月で約5割下落している。原油安は原油輸出国から輸入国への所得移転を通じて、今後世界経済に様々な影響をもたらすと見込まれているが、以下ではアジア主要国の景気への影響を展望する。

■原油価格の下落は総じてアジア経済にプラス
まず、原油価格の下落が各国の景気を押し上げるメカニズムを整理すると、原油価格の下落は企業の燃料・輸送コストの抑制に伴う収益増加を通じて設備投資の増加に作用する。また、政府のエネルギー価格抑制に向けた補助金の圧縮(補助金の削減・撤廃に向けた構造改革)を通じて各国の財政再建にも寄与する。実際、インド、インドネシア、マレーシアなどでは、足元の原油下落を受けて補助金の削減・撤廃を進めている。この他、インフレ率の鈍化は、家計の実質購買力の増加に作用するとともに、緩和気味の金融政策を通じて投資の増勢加速にも作用する。
ただし、マクロ経済に与える影響の度合いは、各国のエネルギー構造や原油輸入依存度によって大きく異なり、タイ、シンガポール、韓国など、名目GDPに対する原油・石油製品の純輸入比率の高い国を中心にアジア経済にプラスの影響をもたらすと見込まれる(右中央図)。他方、インドや中国などでは、一次エネルギーに占める石油依存比率が低く、石炭への依存比率が高くなっていることから、相対的にみた影響は小幅なものにとどまると予想される。

なお、アジア主要国のなかで唯一の原油の純輸出国であるマレーシアについては、原油価格の下落は短期的に景気にマイナスの影響をもたらすと見込まれる。ただし、埋蔵資源の枯渇を受けて原油生産の抑制が続くなか、同国では原油の輸入が増加傾向にあり、早晩純輸入国に転じると見込まれている。そのため、低水準の原油価格が中期的に続くことは、同国の中長期の経済成長にとって必ずしもマイナスではない。

■産油国の景気減速に伴う直接的な悪影響は限定的
 次に、原油価格の下落の景気下押し影響についてみる。まず、アジア各国の産油国向け輸出は、ロシア、サウジアラビア、クウェート、UAE、ベネズエラなど、成長を原油輸出に大きく依存している国の景気の悪化を受けて、今後下押し圧力が強まると見込まれる。そのため、中国、インド、韓国など、産油国向け輸出が一定のシェアを占める国では輸出への下押し圧力が生じると見込まれる。もっとも、いずれの国でも主要産油国向け輸出の対名目GDP比は2%程度であり、輸出を通じたマクロ経済への下押し圧力は小幅なものにとどまろう。

他方、石油収入を原資とする産油国からのアジア向け対外証券・直接投資への影響については、資本の流れに不透明な部分があるため、一定の幅を持ってみる必要がある。近年の主要産油国の対外投資フローでは、とりわけロシアとノルウェーの投資額が大きい。このうち、ロシアの直接投資の大部分はヴァージン諸島やキプロスなどのタックス・ヘイブンに、ノルウェーの証券投資の大半は米国や英国に向かっており、アジア向け投資の直接的な影響は限定的であると判断されるものの、タックス・ヘイブンや欧米を経由してアジア向けに投資されている可能性もあり、今後の動向を注視する必要がある。ただし、アジア新興国は引き続き有望な投資先であることや、中国・インドなどでは資本移動に規制が続いていることなどを踏まえると、産油国の政府系投資ファンドの大量の資本引揚げにより、アジア各国の金融市場に混乱が生じる事態は回避されると見込まれる。
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