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日本総研ニュースレター 2013年6月号

ICTが創出する資源循環市場
~廃棄物処理に悩む新興国都市部~

2013年06月03日 木通秀樹


新興国で高まる資源循環ニーズ
 急速に発展する新興国では、都市の拡大によってごみ量が年々増加して最終処分場が逼迫するなど、ごみ処理の問題が拡大している。一方で、大規模焼却施設の建設は、住民の強い反対に遭ってなかなか進まない。このような背景で、新興国の地方政府の間で、ごみを減らすための分別に関する政策を制定するなど、資源循環を行うニーズが高まってきた。例えば、中国・広州市では、インセンティブ提供等の施策で、分別の意識に乏しかった市民をわずか1年ほどで動かし、資源循環の前提となる分別回収に成功しつつある。
 同市では、ごみ分別の推進策の一つとして、生活ごみを「リサイクル可能ごみ」、「生ごみ」、「その他ごみ」の3種に分別し、バーコード付きの袋を使った世帯別のモニタリングを開始した。そこで把握した分別状況を清掃作業員やマンション管理会社が評価して住民に注意喚起し、さらに、ごみ減量や有害廃棄物の適正分別に貢献した市民へのインセンティブ提供も行うこととした。2012年の本格導入後、2013年の初めにはマンションの80%がごみ分別排出に参加するようになり、分別精度が約30%に達したと報告されている。

投資判断をサポートする仕組みが重要
 期待される分別回収であるが、システムを導入、定着させることは容易ではない。課題は主に3つある。一つ目が、市民の行動改善の課題である。増加する市民に分別を適切に行ってもらうための手法が確立されていない。二つ目は、設備投資方法の課題である。市民による分別が進むかどうか不透明であるため、導入すべき設備の種類や規模などの方針が決めにくい。三つ目は、関係者の合意形成の課題である。市民のみならず、投資の意思決定を行う地方政府から回収事業者に至る関係者の利害を調整する必要がある。
 特に重要なのが、回収事業者が資源循環システム導入の投資判断をしやすくなる仕組みの整備である。資源循環システムは、市民が排出する資源の受け皿であり、整備されなければ市民の分別行動を成果に結び付けることはできない。しかし、分別の種類が増加するごとに、回収の全拠点に設置するIT機器や多様な資源を回収できる新型車両などを整備しなければならず、場合によっては従来の数倍のコストが発生する。また、指導や回収に当たる人員の確保とそのコストも問題となる。つまり、回収事業者は、市民行動に応じた運営の見通しが把握できない限り、これらに必要な設備等への投資判断を行えない。

予測と協調を行うICTによる課題解決
 この課題の解決には、地方政府の各種の施策に対する排出者行動の変化が見える仕組みの構築が不可欠となる。
 近年はICタグやバーコードなどを用いた資源循環のモニタリング技術が実用段階に入り、行動情報の分析予測技術が進んできた。この技術を使えば、排出者の分別評価情報を基に、近隣市民同士を比較する情報提供で競争環境を作ったり、褒賞を提供したりすることでもたらされる市民の行動変化が分析できる。また、そこで得た分析結果を用いて排出者行動のシミュレーションを行えば、分別される廃棄物量や集積所に集まるごみ量を予測することも可能となる。さらに、この予測結果は、適切な褒賞等の分別促進サービス提供計画と、回収車の投資規模や回収労働力を最小化する最適運用計画の策定において、中心的な役割を担うことになる。
 それぞれの計画を行うシステムの情報を連携することによって、各主体者の利害を調整し、協調する環境を実現させることが可能となる。新たな市場・事業を立ち上げる際には、負担を共有する各主体が利害を調整し、協調して事業を遂行する仕組みを作ることが重要である。

資源循環市場をICTが創出
 急激な都市化が進む新興国において、廃棄物処理問題がますます深刻になっていくことは間違いない。そして、処理すべき廃棄物自体を減らす資源循環の役割は一層重要度を増すだろう。日本企業にとって、資源循環の実現の核となるICTシステムの導入事業は、今後の新興国における廃棄物インフラビジネスの一つの柱となり得るはずである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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