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日本総研ニュースレター 2014年1月号

日本に求められるPost-FIT時代への備え

2014年01月06日 段野孝一郎


FITで急拡大する日本の再生可能エネルギー市場
 2012年7月の固定価格買取制度(FIT)導入より1年半が経過した。FITの導入以前、再生可能エネルギーの累積導入量は2,060万kWであったが、導入後わずか1年で408.6万kWと、これまでの累積導入量の20%に相当する発電設備が導入されており、再生可能エネルギー市場は一気に拡大した。さらに今後は洋上風力へのFITの導入や、農地のみなし転用が可能となる農林漁業再エネ法による土地供給の増加も見込まれる。加えて、FITでは「施行後3年間は利潤に特に配慮する」とされており、FIT開始から3年目に当たる来年度は、導入が一層加速すると見込まれる。

世界では既にFITの役割は終わりつつある
 しかし再生可能エネルギーの導入という観点から世界を見渡せば、日本は1周遅れ以上の状況であり、今の状況を単純に喜んでばかりもいられない。世界ではFITの導入によって再生可能エネルギーの導入が進んだ半面、出力変動が大きな再生可能エネルギーによる系統不安定化や、再生可能エネルギー買取賦課金による電力価格の上昇等の「負の側面」が顕在化するようになり、FITの見直しや終了が相次いでいる。いまや日本を除く先進国は「Post-FIT」の時代に突入しようとしている。
 現在、世界では①FITに依存しない再生可能エネルギー導入促進、②余剰電力の自家消費促進・有効活用促進、の2点が重要なテーマとして検討されている。
 例えばドイツでは、固定買取から取引所利用への移行(卸電力市場において変動制の市場プレミアム価格で再生可能エネルギーを売買する仕組み)や、年間発電量の90%相当のみを買い取る制度への移行を相次いで発表し、再生可能エネルギーを自家消費用の電力として有効活用する方向へ切り替えた。従来のFITに依存する一部メーカー等からは反発もあったが、他方で再生可能エネルギーの余剰電力を買い集め、整形して取引所や電力会社に売電するコンソリデーションビジネスや、自家消費による光熱費削減の経済効果だけで投資回収が可能な太陽光発電システムなど、新たな市場も生まれつつある。また自家消費が困難な余剰電力(系統混雑時に捨電される風力発電等)では、水を電気分解して水素に変えて貯蔵する「Power to Gas」ビジネスが注目され、商用化に向け研究が進められている。

出遅れ気味のPost-FITへの備えを官民で進めよ
 日本でも、Post-FIT時代を見据えた新たな再生可能エネルギービジネスを志向する例が徐々に登場しつつある。その一つとして、オリックス、NEC、エプコの3社が出資して設立されたONEエネルギー株式会社による「蓄電池レンタルサービス」が挙げられる。このサービスは、顧客宅に5.53kWhの蓄電池をレンタル(月額4,900円、補助金が利用できる東京都内は2,900円)し、割安な夜間電力を蓄電して昼間に利用することで光熱費削減を目指すものである。太陽光発電とのセット導入も進めており、蓄電池活用による太陽光発電の自家消費促進や太陽光発電の売電量増加も顧客に提案している。顧客の初期費用負担が少ないレンタル形式で蓄電池を普及させ、将来的には同社が顧客宅から太陽光や蓄電池の余剰電力を買い集め、地域の家庭や工場に供給するサービスへ発展させる狙いだ。同じくコンソリデーションビジネスでは、丸紅が英国の電力コンソリデーターであるSmartest Energy社に資本参加している。今のところ同社は日本を含むアジア地域では事業を展開していないが、今後は欧州で培ったノウハウを世界的に展開することもあり得るだろう。
 このように世界ではPost-FITに対応した再生可能エネルギービジネスが続々と試行されている。一方、日本ではまだ再生可能エネルギーは投資事業としての色彩が濃く、Post-FIT時代を見据えた取り組みはまだわずかに留まる。グローバル市場の動向を踏まえると、今後はFITを前提としない再生可能エネルギーの活用方策を検討することが、FIT制度の出口戦略として非常に重要となるだろう。日本がPost-FITを迎えた時、日本企業の競争力が既に失われ、グローバル市場を獲得できなくなっているという事態を避けるためにも、民間企業には短期的なFIT利潤に浮かれることなく、新たなビジネスモデルを検討する視座が求められる。同時に政府の側も、産業競争力の強化という視点から、グローバル市場の動向を踏まえたPost-FIT制度のあり方の検討が必要である。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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