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日本総研ニュースレター 2013年8月号

欧州の環境都市最前線
~重要性を増すICTの活用~

2013年08月01日 段野孝一郎


欧州のスマートシティ開発の核はICT活用
 2010年、欧州委員会は、①CO2排出量を2020年に1990年比で20%削減する、②最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギー比率を20%に引き上げる、③エネルギー効率を20%引き上げる、という目標を掲げるエネルギー新戦略(Energy 2020)を提案した。欧州では、この新戦略に基づいて省エネ・低炭素化が進められており、都市のスマートシティ化の関連案件に資金拠出を行う「2020 European Fund」の設立などが大きなインセンティブとなって、各国・各自治体では「他都市よりも魅力的なスマートシティ計画」を立案する動きが活発化している。
 EUの中期成長戦略である「欧州2020目標」の関連分野への開発案件に対し、EU各国の格差是正を目的とするEU構造基金が優先的に資金拠出する指針を示したことも、その動きを加速させる。欧州2020目標が掲げる「知的な経済成長」というコンセプトでは「ICTの最大限の活用」が謳われるが、欧州のスマートシティ開発でも、ICTの活用が中心となるからである。
 主な理由の1つに挙がるのは、歴史ある都市が多く、道路や上下水道、送配電線等が概成しているという欧州の事情である。新興国のスマートシティ開発で多い、都市をゼロから作り上げる開発計画(グリーンフィールド)では、ハード側の最適設計で低炭素化を図れるが、欧州のようにインフラが概成した「ブラウンフィールド」では、ハード側の作り直しが難しい。そこで、ハード自体はあまりいじらず、その利用方法等を最適制御するソフト志向のアプローチ、つまりICT活用で低炭素化を図ることが主流となってくるのである。

リスボンではICT活用で65%の節水を達成
 日本総研が、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業として関与するポルトガル共和国リスボン市のスマートシティププロジェクトにおいても、ICTを活用して都心部の交通渋滞緩和や省エネを進める取り組みが進められている。
 なかでも特徴的なのは、ICTを活用して公園散水の合理化を図る「WeTrig」プロジェクトである。観光都市であるリスボン市内には公園が多く、散水のための支出が大きな負担となっていた(市の水道支出の実に71%が公園散水によるもの)。水1㎥を造るには1kWhの電力が必要であり、節水は省エネにも直結する。そこでリスボン市では中央公園を対象に、気象データ(気温、日射、湿度、風況)と土壌データ(含水比等)をセンサーネットワークで収集・分析し、別途整備した植生データベースと突き合わせて、散水量・頻度を最適にコントロールすることで65%もの節水を達成した。現在は同システムに予測機能も追加しており、気象予測データを用いて散水2日前に散水計画を立案するといった仕組みへと進化している。このシステムは今後、街路灯のコントロール(時間帯や走行車両数に応じた自動照度調整等)や交通渋滞解消などの分野へと応用される計画である。
 また、ポルトガル北部のパラデス市では、ICT技術を活用したスマートシティのショーケースとして、1,700haの土地に約1億個のセンサーを導入し、都市インフラをリアルタイムで制御する「PlanIT Valley」開発が進められている。この開発には、F1で有名なマクラーレンのグループ会社であり優れたセンサー技術を有するマクラーレン・エレクトロニック・システムズ社と、センサー経由で収集した各種データの活用で都市インフラを効率的に運用する「Urban Operating System」を有するLiving PlanIT社が参画している。

収集したデータを分析するシステムの技術開発を急げ
 都市インフラにおけるICT関連市場は、今後一層拡大することが予測される。日本企業の間では、無線通信機能や自立電源機能、超低消費電力機能等、自立運用性を高めた次世代センサー関連技術の開発が始まった。総務省と国土交通省でも、社会インフラの老朽化問題対策として、ICTによるモニタリング技術の活用を検討し始めている。
 これからの都市インフラの制御・最適化で、高性能なセンサーがキーデバイスとなることは間違いない。ただし、重要なのは、収集したデータを分析するシステムがセンサー以上に付加価値の源泉となることである。拡大する都市インフラにおけるICT関連市場で収益を獲得していくためには、センサー開発と歩を合わせて、収集したデータを的確に分析するシステム側の技術開発についても十分な投資を行うことが必要である。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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