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2005年07月27日

人民元切り上げの影響をどうみるか

本リポートのポイント
1.人民元・ドル相場の見通し
 新しい為替制度の具体的な運用についてはなお不明なところが多いものの、短期的には、対ドル相場の変動を極力小さくして1ドル=8.11元近辺でほぼ固定させ、これまでの事実上のドルペッグ制と大きな違いはない運用がなされるとみられる。「通貨バスケット」についてはあくまで参考にする程度であり、将来的にはともかく、今回の制度改革では厳密な「通貨バスケット制」が導入されたわけではないと判断される。
 もっとも、今回の制度改革は、人民元の対ドル相場安定のための市場介入が過剰流動性を発生させていたことへの対応という面もある。市場の人民元先高観が強い限りにおいて、こうした過剰流動性を抑えるために、漸進的にタイミングを計りながらではあるものの、中国当局は中期的に人民元が対ドル相場で上昇していくことを容認していくものと考えられる。
2.円ドル相場の見通し
 今回の人民元切り上げについて、米国政府・議会はとりあえず評価する姿勢を示しており、人民元切り上げを材料とする円高圧力は当面は緩和すると考えられる。
 しかし、今後人民元が対ドルで切り上げられていくとの観測は強く、半年から1年程度先を展望すれば、再び人民元先高観は円高を加速させる要因として働く可能性がある。この場合、人民元切り上げを先取りする形で円高が進み、人民元に対しても円は強くなると考えられる。
 3~4年先以降のより中期的には、人民元の価値は対円でも上昇していくことが予想される。これは、長い目でみれば、中国の高成長が続いていくことで日本に対する中国の相対的な実力が徐々に向上していくとみられるためである
3.中国経済への影響
 今回の切り上げ幅(2.1%)は極めて小さく、中国経済へのマクロ的影響は限定的とみられる。
 もっとも、中期的に緩やかに人民元高が進むならば、中国経済をより安定的で望ましい成長軌道に乗せる効果が展望できる。人民元が強くなれば、輸出が抑えられる一方、輸入コストの下落がいわゆる交易条件改善効果を通じて、個人消費を刺激する方向に作用するためである。
4.日本経済への影響
 人民元相場変動の日本経済への影響については、①1年程度先の「短期」、②3~4年程度先の「中期」で相場の動きが異なるため、それぞれ分けて考える必要がある。
《1年程度先の「短期」》
 短期的には、「人民元の対ドル相場上昇」と「円の対ドル相場上昇」という2つのルートを分けて考える必要がある。前者については、中国の貿易黒字の縮小を通じて中国の成長率は押し下げられるものの、米国をはじめとした中国貿易相手国の景気の押し上げ効果が一定程度減殺する。後者については、基本的にマイナスながらもさほど深刻な影響は及ばないと考えられる。ただし、更なる人民元の対ドル切り上げ観測等から円高が急進すれば、ようやく踊り場を脱しつつある景気に冷や水を浴びせかけるリスクに留意しておく必要がある。
《3~4年程度先の「中期」》
 3~4年程度先を展望すれば、人民元はドルおよび円に対しても一段と切り上がっていることが想定される。このとき人民元の対円相場が仮に15%上昇している場合、中国からの輸入価格上昇のマイナス影響が先行するとみられるものの、中期的に均せば日本製品の価格競争力の向上により日本の経済成長率は押し上げられる。
 一方、人民元の切り上げは中国の輸出抑制を通じて中国経済を押し下げ、その結果、わが国から中国への輸出が減り成長率抑制要因となる。半面、人民元の切り上げは輸入コストの低下=実質所得の増加を通じて中国の内需主導成長を促し、最終的には人民元高の輸出抑制効果を相殺すると見込まれる。以上を総合すれば、3~4年程度で15%という緩やかな人民元切り上げは、日本の経済成長率を0.4%程度押し上げる方向に作用するとみられる
5.産業部門別影響
 3~4年後に人民元が円に対して一定程度上昇している場合の主な産業部門別の影響は、輸出入のバランスや中国の位置づけにより、概ね以下のように考えられる。

【国際分業・生産拠点型部門】
エレクトロニクスや一般機械の一部では、国際的な工程間分業が進展しており、その貿易数量は主に世界的な最終需要に左右され、人民元切り上げ自体の影響は限定的。ただし、3~4年後には中国人労働者の賃金水準も上昇し、人民元切り上げが加われば低賃金を前提にした中国生産は見直す必要が出てくる可能性。
【輸入型産業部門】
衣料品や食料・飲料品の日中貿易はわが国が赤字であり、人民元の切り上げは衣料品・食品の流通業者・開発輸入業者にとって、輸入コスト上昇によるマイナス影響が大きく出ることになる。中国人労働者の円換算賃金コストの上昇から、中国で生産することの意味を見直す必要が出てくる可能性。
【現地生産・現地販売型部門】
輸送機械では輸出よりも現地生産が多いうえ、輸出品には追い風となるが、中国製品と競合しない高付加価値品中心であり、輸出数量面でのプラス影響は限定的。
【輸出・現地需要型部門】
化学・鉄鋼や一般機械の一部等、中国製品と競合しない高付加価値品を輸出ないし現地生産・現地販売している部門では、そもそも為替変動の影響を受けにくいためプラス効果は限定的。一方、中国製品と競合する低付加価値品のケースでは、価格競争力の高まりによるプラス効果が期待。
6.長期的な展望
 より長い目で見れば、中国の高成長が続いていくことで、余剰労働力を徐々に解消に向かわせ、人民元は円に対しても本格的に切り上がる条件が整っていくことが展望される。ちなみに、今後7年間最近のペースで賃金が上昇し、仮に人民元が対円で30%上昇すると仮定すれば、中国における外資系企業の平均労働コストは現在の日本の最低賃金水準とほぼ同水準になると試算される。
 今回の人民元制度の変更は、これからはじまる"人民元をめぐる通貨大変動時代"のほんの入り口に過ぎない。日本企業は、広域アジアでの国際分業体制の将来像や、中国市場の将来性を思い描きながら、中国拠点を今から戦略的に位置づけ直していくことが求められている。
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