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イノベーションは偶発的なアイデアに依存しない

2014年11月18日 木通秀樹


 近年、イノベーティブな人材を求める企業が急増している。もともと日本には少ないといわれる人材であるが、昨今の効率追求とコスト競争によって、そうした人材を育成できなくなり、さらに希少な存在となった。近年、新事業創出が求められるようになって、有望な人材が極めて少なくなっていることに危機感が高まっている。

 当センターでは、日本を代表するイノベーティブと言われる人材に、幼少からの経験を伺い、何かを発想する構造の解明する研究に取り組んでいる。最近、新しい分野を開拓した人材には、類似の経験や心の動きがあることが分かってきた。
 調査をした一人の経験を紹介しよう。日本の大学を卒業した後、MITに留学し、義足の研究開発をしていた。知り合いを通じてインドに行く機会を得て、これまでの人生にはない世界を感じる。多くの課題に直面する中で、「10ドルの義足」を開発することを決意する。これまでの常識では、義足は高価であることが当たり前であったが、インドでの体験が発想を変えさせた。誰かが安価な義足がほしい、といっているわけではない。しかし、社会的なニーズを感じ取り、これまで学んだ様々な技術知識を駆使し、実現可能なものとして構築する方法を獲得したのだ。異文化の地では新たな発想に至ることが多い。しかし、誰もが価値あるものの創出に至るわけではない。社会の課題を感じ、自分の中にある知識を引き出し、課題の解決を実現できるまで意思を貫ける人が、創出することができるようだ。

 近年では、個人による力ではなく、チームによって導くイノベーションを起こすための様々な手法が普及してきている。アイデアは一人で考えるより、チームメンバーが刺激しあったほうがよい、という考え方だ。さらに、イノベーションは偶発的なアイデアによって生まれるという考え方が未だ主流である。

 我々の研究結果から見えてくるのは、イノベーションに至る発想には仕組みがあり、本人にとっては一定の必然性があることだ。強烈な体験を通じて得られた仕組みを獲得することで、イノベーションを起こす発想ができるようになる。さらに、継続的に発想し続けるためには、発想から構想、構想から実現へ、という現実的な経験の積み重ねが欠かせない。単なる思いつきと、価値を実現できる発想の違いがそこにある。イノベーションは偶発的なアイデアに依存しない、という考え方が立証できれば、イノベーティブな人材を育成する手法を開発できるはずだ。我々の研究は、それを目指している。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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