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2005年07月15日

【 緊 急 提 言 】郵政民営化路線を頓挫させるな ~望まれる国民的視野からの議論~

1. 小泉構造改革の本丸と位置づけられる郵政民営化法案が廃案の危機に瀕している。民営化の否定は、即、小泉政権のレイムダック化を意味するだけでなく、日本経済の本格再生に向けて断行されている構造改革路線そのものをも頓挫させかねないという意味で深刻に受け止めるべきである。日本総研は民間シンクタンクとして、郵政民営化を支持する立場から、緊急提言を行う。
2.衆議院の審議では、「何故、民営化が必要か」といった入り口部分での議論に終始し、民営化のメリット・効果を強調する政府サイドと、民営化によるデメリット(店舗廃止など地域住民に対するサービス低下の懸念)を声高に主張する反対派の主張が平行線をたどったまま、議論の深まりがみられなかったことは遺憾である。
3.民営化した場合の10年後の姿を正確に想定することは客観的に言って極めて難しいと言わざるを得ないが、今、真剣に議論すべきは、民営化しない場合の将来の日本経済ひいては日本国民への潜在的リスクは何かという点であろう。この点に対する正確な認識を国民各層が共有できれば、民営化そのものに反対するのではなく、いかにしたら「良い民営化」を実現できるのかという一歩踏み込んだポジティブな議論が可能になろう。
4. 「民営化しない場合の潜在的リスク」とは、以下の3点である。
 (1) 巨大な公的金融=郵政・財政投融資システムが温存され続ける結果、市場メカニズムを通じた個人金融資産の有効活用が阻害 される。このことは、わが国が他の先進諸国に例をみないスピードで人口減少・超高齢化社会に突入する中で、労働力人口の減少に伴う潜在成長力の低下を阻止 するために、資金を将来の成長性が見込める新しい分野に流すという金融本来の役割が十分な機能を発揮できないという意味で、経済再生にとって大きな足かせ となることを意味する。日本の金融システムを強化し、「貯蓄から投資へ」の構造改革を促進するためには、民営化が不可欠である。
 (2) 郵貯・簡保資金の運用先は、国債(163兆円、シェア48%)、財投・特殊法人等(105兆円、同31%)とこの2分野 で8割を占めており、事実上、郵政公社は国や財投機関・特殊法人・政府系金融機関など公的企業のファイナンス機能を担っている。とくに懸念されるのは、特 殊法人や政府系金融機関は、巨額の「偶発債務リスク」すなわち経営破綻・債務超過などに伴う潜在的な国民負担となるリスクを抱えていることである。歴史的 な低金利・超金融緩和策によってそうしたリスクは今のところ抑えられているが、将来の金利上昇局面では、リスクが顕在化する確率は決して小さくない。
 (3) 将来の金利上昇は、郵貯自身の経営に対するリスクをも大きく高める。半年複利・ペナルティーなしで解約自由という定額郵 貯の商品性は、民間では取ることのできないリスクである。金利上昇局面でより高い定額郵貯に乗り換える動きが強まることによって調達金利が短期的に急上昇 し、運用利回りは短期的には変わりにくいことから、逆ざやとなり大幅な赤字に陥ることは過去の金利上昇局面における経験からみても明らかである。郵政を民 営化することで経営の自由度が増すとともに国債運用に偏ったポートフォリオの是正も可能となり、金利上昇など将来の金融環境の変化に機動的に対応できるよ うになることが期待される。
5.今回の国会審議における議論の中で、見落とされているもうひとつの視点は、誰のための民営化かという点である。民営化は 「国民」にとってプラスかマイナスかという議論は物事の本質を正確に捉えていない。「国民」とは、正確に言えば、郵政サービスの「利用者」の立場と、コス トを負担する「納税者」としての立場の2つがあり、これらを峻別して議論しなければならない。「利用者」としての国民の目からは、郵政サービスは低コスト で過疎地も含めてユニバーサル・サービスが行き届いているため、民営化の必要性が理解しにくいことは事実である。しかし、他方で「納税者」の立場からみれ ば、こうしたサービス供給のコストとして、年間1兆円もの「見えざる国民負担」(税金や預金保険料を免除されている部分のコスト)がかかっていることを忘 れてはならない。さらに、前述した巨大な潜在的リスクを抱えたままでは、将来の国民負担は膨大な額に上りかねない。民営化をすることで、サービスに見合っ たコストを払い、潜在的リスクの芽を今のうちから摘んでおかなければならない。また民営化による将来の株式売却収入は、数兆円以上に上ると予想され、財政 健全化にも大いに資することになろう。なお付言すれば、郵政サービスの「利用者」のすべてが必ずしも弱者ではない。預入限度額の1000万円を超えて名寄 せされないまま複数口座を保有する高額資産保有者のコストも税金で賄われていることを忘れてはならない。
6.以上のように、郵政民営化はJRなど単なる行政改革や公社の効率的な経営といった狭い問題で捉えるべきものではなく、 「郵政・財政投融資システム」という公的セクターの肥大化・非効率化を是正する「入り口」「出口」の一体的な改革として捉えなければならない。また国民経 済的にみても、巨額の見えざる負担をなくし、国民の金融資産の有効活用を通じて、来る人口減少・超高齢化社会を乗り切る構造改革の切り札と位置づけられ る。その意味で、民営化は肥大化した官主導型国家から活力ある民主導型国家への転換を実現するために必要不可欠かつ最優先で取り組むべき政策課題であり、 このチャンスを逃すことになれば、日本の将来にとって大きな禍根を残すことにもなりかねないことを銘記すべきである。
7.民営化反対派の立場からは、過疎地におけるユニバーサル・サービスの低下や、郵政会社自体の経営がうまくいくのか、など 様々な懸念はあろう。しかし、今回の法案修正によって、そうした「悪い民営化」に陥ることを防ぐための手立ては十分講じられている。万が一にも、「悪い民 営化」が現実化する懸念が出てきても、有識者から成る民営化委員会が3年ごとに民営化の状況をレビューし、必要に応じて「見直し」を行うことになってい る。必要なユニバーサル・サービスを確保しつつ、分社化された4社が市場経済の中で自立し、かつ現存の民間企業の経営を圧迫しない「良い民営化」をいかに 実現するかにすべての叡智を結集すべき時である。
8.郵政民営化を巡る対立は、改革派と守旧派の間での政治的対立の色彩が強い。その背後には、市場経済原理主義と伝統的保護 主義によるイデオロギー的対立があるとの指摘もある。しかし、好むと好まざるとに関わらず、わが国が人口減少・超高齢化社会を乗り切っていくためには、持 続不能となった既存のシステムに、市場経済原理と自己責任・自助努力の仕組みを埋め込んだ新たなシステムへと改革することが不可欠の課題である。参議院の 審議では、入り口論の議論やイデオロギー的対立から早期に脱却し、日本の財政・金融・経済システムの活性化をいかに図るかという国民経済的観点から郵政民 営化法案を審議し、成立に全力を尽くすべきである。郵政民営化法案の成否は、小泉構造改革の行方を左右するだけに世界中が注目して見守っている。与党のみ ならず野党も含めて、目先の利害にとらわれることなく、高い見地から本質的な議論を進めることが政治の責任であり、健全な民主主義国家の構築にもつなが る。その意味で、今まさに、日本の政治の質が問われているといえよう。
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