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アジア・マンスリー 2014年12月号

【特集:2014年アジア経済の見通し】
緩やかな回復が続く2015年のアジア経済

2014年12月02日 佐野淳也


2015年のアジア経済は、回復が続くと見込まれる。とはいえ、外需のけん引力は弱く、財政・金融政策による成長押し上げも期待しにくいため、成長率は総じて前年並みの水準にとどまる見通しである。

1.2014年のアジア経済
景気の持ち直しがみられるようになったものの、一次産品価格の下落や輸出の伸び悩み、中国経済の緩やかな減速などを背景に、回復の足取りはなお緩慢である。

(1)増勢鈍化要因が払しょくされず、年央まで景気は減速基調
世界経済の回復の遅れに、①中国の成長鈍化、②一次産品価格の下落が重なり、アジア経済は2011年後半以降、減速基調で推移している。
中国経済は2000年代に入り、政府による成長志向の強い経済運営もあって、年平均+10%前後の高い成長率を保ってきた。しかし、世界経済の回復の遅れに加え、習近平政権が経済構造の転換を優先し、不動産を含む投資に対して抑制スタンスで臨むようになったことから、中国の実質GDP成長率(以下「成長率」)は12年、13年と2年連続して、+7%台にとどまった。その結果、中国の高成長がアジア各国・地域の輸出拡大を促し、生産(機械や造船など)や投資、海運等の需要も押し上げる好循環メカニズムは終息し、むしろ今般の景気減速局面では増勢を鈍化させる要因へと転化した。
また、中国をはじめとする世界規模での資源需要の鈍化を受け、石炭やパームオイル、天然ゴムなどの価格は2012年頃から下落傾向をたどっている。一次産品価格の下落に伴う最も顕著な影響として、インドネシアにおける石炭輸出量の伸び率低下があげられる(「インドネシア」参照)。天然ゴム(タイ、マレーシア)やパームオイル(マレーシア)の生産上位国に対しても、価格下落は景気拡大の勢いを弱める方向に作用した。
2014年になっても、こうした流れが基本的に解消されなかったことから、年前半を中心に、アジアの景気は総じて減速した。四半期ベース(断りのない限り、以下前年同期比)の成長率でみると、中国は1~3月期+7.4%、4~6月期+7.5%、7~9月期+7.3%と、+7%台の拡大ペースが続いている。経済の失速回避に向け小規模な対策が講じられたことで底堅く推移する一方、大規模な景気刺激策の実施には慎重な中央政府の姿勢にも沿った結果といえよう。
韓国の場合、1~3月期は12四半期ぶりの高い伸び(+3.9%)となったものの、4月のフェリー事故後の消費自粛ムードが響き、4~6月期は+3.5%に低下した。
ASEANについてみると、タイでは、洪水復興需要の一巡、前年末からの政局不安定化に伴う公共事業の遅れなどを受け、1~3月期の成長率は▲0.5%と、2011年10~12月期(大規模洪水に見舞われた時期)以来のマイナスを記録した。4~6月期以降はプラス成長に戻ったが、2四半期連続で+1%未満の低水準にとどまっている。インドネシアも、①新鉱業法の施行等による輸出の低迷、②政治的混乱を敬遠した投資の手控えを受け、緩やかながら成長率の低下傾向が続いている(1~3月期+5.2%、4~6月期+5.1%、7~9月期+5.0%)。
インドについては、インフレ対策としての金融引き締め政策もあって、1~3月期は+4.6%と、2四半期連続で+4%台の成長にとどまった。

(2)政治面からの景気押し下げ圧力は解消へ
冒頭で述べた流れは概ね変わっていないものの、各国特有の景気減速要因が年後半にかけて薄らぎ、持ち直しの動きもみられている。
例えばタイにおいては、5月にクーデターが発生し、内需の一段の落ち込みが懸念されたが、実権を掌握した国家平和秩序維持評議会(NCPO)および9月に発足した暫定政権は、政治的な混乱を終息させるとともに、経済の正常化に向けた各種措置を実行している。一連の取り組みが奏功し、GDPベースの民間消費は4~6月期に、総固定資本形成も7~9月期にプラスに転換した。もっとも、内需持ち直しの勢い自体は弱いうえ、回復のけん引役を期待されていた財・サービス輸出も、むしろ一段と減少したことから、+0%台の低成長が続いている。
インドでは、積極的な外資誘致を通じて地元グジャラート州の高成長を導いたモディ氏が首相に就任(5月)した。政権交代による閉塞感の解消やモディ新首相への改革期待などを背景に、主要指標は総じて回復し、4~6月期の成長率は+5.7%に加速した。インドネシアの場合、ジョコ新大統領の就任および閣僚人事の発表(10月)によって政治的混乱が解消され、投資意欲の改善を期待できるようになった。
半面、直近の貿易統計をみると、輸出はこれまでの景気拡大局面にみられたような力強さを欠いている(前頁右下図)。タイ以外では、韓国やマレーシアの伸び悩みが顕著である(「韓国」、「マレーシア」参照)。
政治的な不透明感の払しょくなど、景気回復に向けた明るい兆しは表れたが、中国の成長鈍化、一次産品価格の下落といった増勢鈍化要因を勘案すると、アジアにおける景気回復の足取りはなお緩慢であり、2014年の成長率が前年実績を下回る国や地域は少なくないと予想される。

(3)金融政策では対応分かれる
2014年のアジアの金融政策をみると、引き締め強化と緩和に対応が分かれた。引き締め強化を選んだ国は、マレーシア、フィリピン、インド、インドネシアである。いずれも、インフレ対策を最優先し、利上げや預金準備率の引き上げを実施した。インドについては、通貨安の抑制も引き締めの一因となった。
これに対し、景気浮揚の一環として利下げを実施したのは韓国、タイ、ベトナムである。中国に関しては、4月と6月に対象を限定した預金準備率の引き下げを行った後、11月22日に2012年7月以来となる基準金利の引き下げを実施した。

2.2015年のアジア経済
景気は持ち直すものの、外需の力強い回復は見込めず、大規模な景気刺激策の実施も想定しにくいなか、15年の成長率は、総じて前年並みか若干上回る水準にとどまる見通しである。

(1)緩やかな景気の回復が続く
2015年のアジア経済見通しに際して、①アジアを取り巻く外部環境が景気の回復を促すのか否か、②成長率低下をもたらした域内要因が15年はどうなるのか、の2つがポイントとなる。
まず外部環境では、米国をはじめ、先進国経済の回復が見込まれ、アジア経済には追い風となる見通しである。もっとも、けん引役となる米国では、賃金の伸び悩みで個人消費の力強い拡大が期待しにくいなか、シェール革命やアジアでの人件費上昇等を受けて一部には生産拠点を米国やメキシコに移す動きもみられ、かつてのように、アジアからの輸入が大幅に増える状況ではなくなっている。アジアからの輸出の増加ペースは引き続き緩やかにとどまるだろう。
なお、米国の利上げに伴う大規模な資金流出が成長下振れリスクとして懸念される。とはいえ、QE3(量的緩和政策第3弾)の終了観測が出た13年5月以降、過度な通貨安の是正に向けた引き締め策が実施され、経常収支赤字国では赤字幅が縮小傾向を示している。また、1997年のアジア通貨危機当時と比べて、外貨準備高の規模や輸入カバー月数(外貨準備高で何カ月分の輸入を賄うことができるか算出)も増えている。さらには、日本や欧州の金融緩和が米国の利上げによるショックを和らげる役割を果たすと期待されることから、よほど急激な利上げが行われない限り、アジア経済は対応可能であり、影響も限定的であろう。
域内要因について検討すると、14年のタイやインドネシア、香港などでみられた政局不安定あるいは政治的混乱の沈静化に伴い、こうした方面からの景気押し下げ圧力は解消されるであろう。さらに、政治の安定回復に伴う消費および投資意欲の改善、公共事業等の着実な執行も期待できる。
一方、中国経済は、安定雇用を背景に、政府が過剰投資・過剰債務の抑制を継続する見込みである(「中国」参照)。ただし、経済の失速が懸念される場合には、小規模ながらも景気刺激策が講じられる公算が大きく、2015年の成長率は前年を下回るものの、+7%台前半の成長は確保されると見込まれる(2014年は+7.4%、15年は+7.2%)。
経済政策の面では、景気浮揚以外に注力しなければならない課題が積み上がりはじめており、非常時を除き、財政・金融手段を総動員して成長を押し上げる展開は期待できないと考えられる。
財政赤字が続くなかにあっても、インフラや社会保障制度の拡充のための資金調達が急務となっており、補助金の削減等で対応しようとする動きがアジア各国でみられている。とりわけ、インドネシア、インド、マレーシアでは、こうした取り組みを近年加速させている(2014年11月に、インドネシアが燃料補助金の引き下げを実施)。少なくとも、歳出を闇雲に増やし、財政赤字を拡大させてでも、成長率を押し上げようとする動きは、いまのところ見当たらない。
金融面においては、インドネシアやフィリピンなど、インフレ対策が優先課題となっており、緩和よりも引き締めを選択せざるを得ない国が少なくない。インドについては、緩和の余地は出てきたものの、米国の利上げによる資金流出懸念や物価の高止まりを踏まえれば、緩和は慎重に進められる可能性が高い。各地で不動産価格の急騰が指摘されている現状も勘案すれば、2015年のアジア各国・地域において、大規模な金融緩和が実行される可能性は低いと考えられる。
以上を総合すると、2015年のアジア経済は景気の回復が続くと期待されるものの、そのペースは緩慢であり、各国・地域の成長率は、総じて前年並みか若干上回る水準にとどまる見通しである(詳細については、各国・地域の部分を参照)。なお、タイについては、景気刺激策による押し上げ効果や前年の反動増もあって、15年の成長率は+4.9%と、大幅な加速が見込まれる。
 
(2)2015年の注目点
中長期的な観点から、2015年のアジア地域で注目すべき事項は以下の3点である。
第1に、AEC(ASEAN経済共同体)など、アジアを取り巻く経済連携の動きである。AECが2015年末に予定通り発足した場合、約6億人の巨大経済圏(市場)が始動する。CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)の関税撤廃や人の移動に関する規制緩和といった課題は残っているものの、AEC誕生を機に、ASEAN各国を結ぶインフラ計画や生産分業体制の再構築などの動きが一段と加速するであろう。RCEP(東アジア地域包括的経済連携)やTPP(環太平洋経済連携協定)、さらには二国間のFTA(自由貿易協定)の交渉の進展状況にも一層の注意を払う必要がある。
第2に、AIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立に向けた動きである。アジア開発銀行(ADB)は、2010~20年の期間中、アジアのインフラ整備資金として8.3兆ドルが必要との試算を示している。ADB等の既存の枠組みで対応できる規模ではないとの判断から、AIIBの創設準備覚書に、中国以外に20カ国が署名(14年10月、インドネシアも同年11月に参加表明し21カ国に)した。中国は、15年末までのAIIBの業務開始を目指しており、今後はその可能性の有無、発足を前提とし、ADBなどとの役割分担や審査能力の向上、透明性の確保といったアジアの発展に資する方向で検討を進めていくことが求められる。
第3は、秋に開催予定の中国の「五中全会」(中国共産党第18期中央委員会第5回全体会議)である。「五中全会」において次期5カ年計画の原案を討議、採択する慣例に従えば、2015年の「五中全会」で「第13次5カ年計画」(2016~20年)の原案が採択されよう。数値目標や細かい内容は、翌16年春の全国人民代表大会(国会)で審議され、公開されることになるが、「五中全会」後に公表される原案から、習近平政権が2016年以降構造改革をどのように進めていくのか、生産年齢人口(15~59歳)減少期における経済発展戦略などについての概要は示される見込みである。
2015年は、アジア経済の中長期的な発展を左右する重要な取り組みが大きく動く可能性を秘めた年でもあるといえよう。
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