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アジア・マンスリー 2014年10月号

【トピックス】
長引く中国不動産市場の調整

2014年10月03日 関辰一


中国不動産市場は当局の価格抑制策により調整期に入った。今後、当局が大都市の不動産バブル是正と資金配分の見直しを目的に価格抑制策を続けるなか、不動産市場の調整は長期化すると見込まれる。

■不動産市場は調整期入り
2014年7月、中国主要70都市における新築住宅の平均販売価格は3カ月連続で前月水準を下回った。4月時点では、住宅価格の下落はわずか8都市に限られていたものの、7月には全体の9割にあたる64都市に広がり、過熱感がある上海と北京でも住宅価格の上昇に歯止めがかかった。住宅需要が縮小するなか、2014年1~7月の分譲住宅販売床面積は前年同期比▲9.4%減少し、不動産開発投資は同+13.7%にスローダウンした。

この主因は、当局による不動産価格抑制策である。2012年末から住宅価格の上昇が鮮明化するなか、政府はまず2013年2月からキャピタルゲイン課税(20%)の徴税強化を含む価格抑制策を打ち出した。そして、10月以降に導入された以下に示す一連の追加措置は住宅価格下落の直接的な要因となった。具体的には、10月23日、北京において住宅購入条件を満たさない住宅売買に対する具体的な罰則、および転売条件付き低価格住宅制度を盛り込んだ7項目の政策(通称“京七条”)が発表された。11月8日、上海においてセカンドハウスに対する住宅ローンの頭金比率引き上げ(60%→70%)、上海戸籍を持たない居住者の購入制限強化(1年以上の納税実績→2年以上の実績)などを含む“滬七条”が公布された。11月末から中小都市も価格抑制策を厳格化した。

不動産価格抑制策は、家計の住宅価格の上昇期待を弱め、住宅需要の抑制要因となった。中国人民銀行は全国の2万世帯を対象に、住宅価格の見通しを定期的に集計している。「上昇」「横ばい」「下落」「わからない」からなるアンケート結果をみると、「上昇」と期待する世帯割合は不動産価格抑制策が打ち出された2013年1~3月期に、全体の34.4%で頭打ちとなった。その後の追加措置を受けて、同比率は2013年10~12月期から低下傾向にある。2014年4~6月期調査では、「上昇」と期待する世帯割合は全体の21.2%、「横ばい」は50.3%、「下落」は15.1%、「わからない」は13.4%という結果であった。価格上昇期待の弱まりに連動し、住宅販売床面積は2013年3月以降伸び悩み、同年年末以降減少トレンドに転じた。このように、中国の不動産市場は政策動向に敏感である。

■継続が見込まれる不動産価格抑制策
今後を展望すると、不動産市場の調整は長期化する見通しである。目下、大都市の不動産バブルを是正すること、および不動産セクターに集中する資金を他の分野に再配分することについて、十分な成果が上がっておらず、当局が現状の抑制的な不動産政策を根本的に見直す可能性は小さい。今後も、地方の状況に応じて政策を微修正することはあっても、基本的には不動産価格抑制策を継続する公算が大きい。実際、当局は利下げなど全面的な金融緩和を見送り、過熱感がある北京・上海ではセカンドハウスの購入や戸籍を持っていない居住者に対する制限を堅持している。

大都市の不動産バブル是正は安定成長にとって重要である。国家統計局によると、2012年の北京の分譲住宅販売価格は16,553元/㎡である。一戸当たりでは、137万7,210元となる(建設部によると、全国都市部の一戸当たり住宅面積は2005年時点で83.2㎡)。これは、10万4,301元という北京の平均世帯年収の13.2倍に達する(国家統計局によると、2012年の北京の都市部一人当たり可処分所得は3万6,469元、全国都市部の一世帯当たり人口は2.86人/世帯)。北京のみならず、上海とリゾート地の海南省でも、投機目的の住宅購入が多く、住宅価格は平均して世帯年収の10倍以上となっている。住宅価格の高騰を放置すれば、これらの地域の不動産バブル崩壊リスクは大きくなる。

また、資金の再配分も持続的な成長にとって極めて重要である。近年、不動産市場へ過度な資金が流入しているからである。信託業の不動産開発向け融資残高は2010年末の4,324億元から、2013年6月末には8,119億元に急増した。信託融資は、規制が強化されている銀行融資に代わって増加しており、本質的に銀行融資を代替する代表的なシャドーバンキングである。また、地方融資平台の債務残高は、同期間に4兆9,711億元から6兆9,704億元まで膨張した。理財商品から地方融資平台を経て不動産開発に資金が流入するスキームも代表的なシャドーバンキングである。こうした動きは中央政府の方針と逆行する。当局は金融政策執行報告などで、繰り返し総量規制と資金配分の見直しが重要であると主張し、中小企業や農村部、鉄道建設等PFI、戦略的新興産業へ十分な資金が流れていないことを懸念している。確かに、消費構造の高度化が見込まれるなか、eコマースやヘルスケア等サービス産業への円滑な資金配分は、経済構造調整にとって肝要である。

なお、中国では住宅購入に際しての借り入れ依存度は高くない。したがって、家計部門には深刻なバランスシート調整は生じない見通しで、不動産価格抑制策の大きな障害にはならないとみられる。中国不動産市場の調整は抑制的な不動産政策の下、長期化すると見込まれる。
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