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アジア・マンスリー 2014年10月号

【トピックス】
円安・ウォン高継続下の日韓経済関係

2014年10月03日 向山英彦


2012年秋口以降、円安・ウォン高が進んだ。これにより、日韓経済関係に変化が生じている。注意したいのは、14年に入り、日本から韓国への輸出(円ベース)が前年割れとなっていることである。

■減少に歯止めがかからない日本からの観光客
韓国では2012年秋口以降、急速な円安・ウォン高に見舞われた。12年10月に100円=1,500ウォン台で推移していたウォン・円レートは同年12月に1,200ウォン台、13年1月に1,100ウォン台、5月には1,000ウォン台へ上昇した。その後、しばらくの間総じて1,000ウォン台で推移していたが、14年6月に900ウォン台へ突入した。最近の円安の加速により、9月5日現在、100円=960ウォン台で推移している。

経済面への影響として、まず日本から韓国への訪問客(観光客)数の落ち込みがある。13年半ば以降減少幅は縮小に向かったが、14年入り後再び拡大している。減少に歯止めがかかっていないのは、円安・ウォン高と韓流ブームの終焉に加え、政府間関係の悪化が影を落としていると考えられる。

韓国では、日本からの旅行客の減少は中国からの旅行客増加で穴埋めされているとはいえ、日本人旅行客を主として相手にする店は打撃を受けた。また、日本の一部の地方空港でも、韓国への直行便が減便となるなどの影響が出ている。

他方、韓国の日本への訪問客数は13年には前年比+20.2%と伸びたが、14年(1~7月)はフェリー沈没事故後の旅行自粛もあり前年同期比▲2.4%となっている(数字は日本政府観光局)。

■やや予想外の日本の対韓輸出の動き
円安・ウォン高は貿易面にも影響を及ぼしている。韓国側の統計(ドルベース)に基づき最近の動きをみると、以下の二点が指摘できる。

一つは、韓国の対日輸出の減少である。12年の前年比は、大震災後に急増(+40.8%)した前年の反動と秋口以降の円安・ウォン高により▲2.2%へ低下し、13年に入ると減勢が進み同▲10.7%となった。14年に入ると、徐々に減少幅が縮小し、1~7月は前年同期比▲3.8%であった。ただし、品目によりばらつきがある。10年から3年続けて2桁の伸びを続けた自動車部品は、13年に前年比+3.6%へ低下したが、14年(1~7月)は前年同期比+23.5%へ増勢が増した。これは一部の日本の完成車メーカーが、九州工場で生産する自動車での韓国製部品使用率を引き上げたことが関係していると考えられる。

もう一つは、韓国の対日輸入の低迷である。韓国の対日輸入は12年に前年比▲5.8%、13年は同▲6.7%、14年(1~7月)は前年同期比▲11.8%と、減少幅が拡大している。円建て取引が多いため、円安によりドルベースの金額が著しく減少している。
他方、日本側の統計(円ベースの財務省統計)に基づくと、やや異なる様相がみられる。
まず、日本の対韓輸入が韓国の対日輸出(ドルベース)の動きとは反対に、円ベースでは増加基調となっている。13年後半に2桁の伸びを記録した後、14年に入り減速しているものの、1~7月は前年同期比+3.8%となった。

注意したいのは、日本の対韓輸出の動きである。対韓輸出は円安効果で13年半ばに著しく伸びたが、その後減速し、14年(1~7月)には前年同期比▲4.5%になった。円安・ウォン高が続いているにもかかわらず、輸出が減少に転じた要因としては、ベース効果(13年3月から2桁の伸び)と現地生産の拡大に加えて、韓国の大企業の輸出生産が鈍化していることが考えられる。

以前よりも低下しているとはいえ、韓国では、輸出生産に使用される素材、基幹部品、製造装置の多くを日本から輸入している。2000年代に韓国の大企業のグローバル展開が加速したことにより、①韓国企業の輸出生産拡大→②日本からの輸出拡大→③日本企業による現地生産の開始という動きが生じたが、①の増勢が鈍化したため、日本からの輸出も減速したと推測できる。

■減少する日本からの投資
日本からの直接投資にも影響が表れ始めている。

14年上期は韓国への直接投資額(申告ベース)が前年同期比+29.2%となるなかで、日本からの直接投資が同▲15.2%となった。なお、14年上期は中国からの投資が著しく増加した。

日本からの直接投資は12年に急増した後、13年は前年比約4割減、14年上期は前年同期比2桁減と、減少基調が続いている。これには、日韓両国の経済環境の変化が影響していると考えられる。

数年前まで、KOTRA(大韓貿易投資振興公社)は日本での投資セミナーにおいて、日本の「6重苦」(①円高、②高い法人税率、③自由貿易協定への対応の遅れ、④製造業の派遣禁止などの労働規制、⑤環境規制の強化、⑥電力不足)を取り上げて、韓国で生産する優位性をアピールした。実際、韓国企業の生産拡大もあり、韓国に進出して現地生産する動きが広がった。

しかし、「超円高」の是正、韓国における電力料金引き上げ、日本政府によるTPP(環太平洋経済連携協定)交渉への参加などにより、韓国に投資するメリットは以前より低下した。また、前述した韓国大企業の勢いの低下と政府間関係悪化も影響していよう。

以上、円安・ウォン高を含む環境の変化により、日韓経済関係には数年前と異なる動きがみられる。こうした経済の実態を踏まえつつ、両国政府には二国間の経済関係の発展とアジアの持続的発展に向けての協調など、より未来志向的な関係の構築に注力することを期待したい。
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