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アジア・マンスリー 2014年9月号

【トピックス】
住宅価格の下落に中国はどう対応するか

2014年09月03日 三浦有史


中国で住宅価格の下落が続いている。景気の腰折れを回避しながら、いかに「三中全会」で示した諸改革を実行に移すか。年後半の経済政策は習近平-李克強体制の真価を問うものとなろう。

■見方が分かれる市場動向
政府のシンクタンクである社会科学院の都市競争力研究センターは、7月末、「中国住宅発展中期展望2014」(以下、「展望2014」とする)と題する報告書を公表し、住宅市場は2~3年の調整期に入り、需要回復までに少なくとも6年程度かかるとの見通しを明らかにした。

「展望2014」において、住宅市場が調整期に入ったことを示す根拠のひとつとされているのが、新築住宅価格の急速な下落である。国家統計局は、2011年から70の大中規模都市の同価格を公表しているが、2014年4~6月は過去に例のないスピードで価格が下落した。価格が前月比マイナスとなる都市が55に達するのも初めてのことで、年後半も供給過剰と値下がり期待から価格は下落する、というのが「展望2014」の見立てである。

ただし、住宅市場はこれまで何度もバブル崩壊が指摘されてきたものの、すう勢的には堅調に推移してきた。2014年に入ってからの住宅価格の下落は、住宅・都市農村建設部傘下の中国城郷建設経済研究所のデータでも確認できるが、6月までの価格下落と販売面積の減少は、今のところ2010年以降の変動範囲内にある。

不動産市場の先行きについては、専門家の間でも意見が分かれる。バブル崩壊が始まったとする見方がある一方、価格の下落は続くものの、下落により取引量の拡大や中古住宅の販売の回復、さらには、住宅購入規制の緩和に伴う需要の持ち直しを予想する見方もあり、予断を許さない。

■問われる習近平―李克強体制の真価
住宅は不動産業の中核をなし、中国経済のけん引役を担ってきた。国際通貨基金(IMF)は、不動産業は建設業を含めるとGDPの15%、固定資産投資の25%、都市雇用の15%、銀行融資の20%を占めるとしている。不動産業が停滞した場合、その影響は大きく、不動産投資が実質ベースで10%減少すると、工業増加値が1.2%、GDP成長率が1%低下すると試算している。影響は中国と経済関係の深い国にも及び、ドイツの成長率を1.1%、日本と韓国のそれを1.0%引き下げるとしている。

1~6月の不動産投資の実質伸び率は前年同期比+13.1%と、前年同期の同+20.3%から7.2%ポイント低下し、統計が公表されてから最も低い水準にある。IMFは、不動産投資の伸び率の鈍化は、住宅価格と住宅販売面積を引き下げる効果があるともしており、不動産市場はスパイラル的に悪化する可能性がある。

しかし、政府は強気である。「展望2014」は、供給過剰に陥った市場の調整は市場によってなされるべきであり、政府は安易に介入すべきではないとしている。こうした見方が示される理由の一つとして、中国の不動産市場は発展途上にあり、日本や米国が経験した先進国の不動産バブルとは本質的に異なると考えられていることがある。「展望2014」は、都市化政策により農村から都市へ1億人程度の人口移動が見込めることや家計が過剰な負債を抱えているわけではないことなどから、住宅バブル崩壊を「あり得ない」と一蹴した。

第二は、投資主導型経済からの脱却を進めるには不動産投資の抑制が不可欠と考えられていることがある。中国企業(非金融法人)のレバレッジ水準は他の新興国に比べ非常に高い。シャドー・バンキングを含む社会融資規模の残高は、6月末時点で132兆元、対GDP比210.1%に達した。レバレッジの拡大は地方政府債務の増加と金融システムの不安定化を誘発し、中国経済の脆弱性を高めている。不動産投資の抑制はもはやスローガン倒れにすることが許されない喫緊の課題として浮上してきたのである。
 
第三は、住宅価格の抑制が必要になってきたことがある。IMFによれば、世界主要52カ国・地域のなかで、中国の住宅価格の上昇率は4位に入る。北京市と上海市の都市の1人当たり可処分所得(年間)は4万元を超えるが、それぞれの単位面積当たりの平均住宅価格と照らしあわせると、それで購入できる住宅面積はわずか2平方メートル分にすぎない。中間所得層でも手の届く範囲に住宅価格を引き下げなければ、都市化はなかなか進まず、市民の不満は高まる。

住宅価格の急速な下落が続けば、景気の腰折れを招く危険性がある。しかし、それを避けるために政府が介入を行えば、財政金融の健全化はますます遠のく。7%台の成長を維持しながら、住宅価格を適正水準へ引き下げ、財政金融の健全化を図るか。政府は極めて難しい問題に直面している。しかし、これは「三中全会」で示した改革を進めるチャンスでもある。年後半の経済政策は習近平―李克強体制の真価を問うものとなろう。
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