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「CSV」で企業を視る/(23)堀場製作所の長期的な企業価値向上の取組み

2014年09月01日 ESGリサーチセンター 林寿和


 本シリーズ23回目となる今回は、日本を代表する分析・計測機器メーカーである堀場製作所を取り上げる。同社は、2014年5月、これまで別々に発行してきたCSRレポートとアニュアルレポートを初めて統合し、統合報告書「HORIBA Report 2013」を公表した。その冒頭には「長期的な企業価値創造をコミットします」という大きな見出しで始まる社長メッセージが掲げられている。
以下では、そのコミットを裏付けていると考えられる「見えない価値」育成の取組み、社会的課題解決に軸足を置いた事業展開について述べる。

(1)「見えない資産(財務諸表に載らない資産)」育成の取組み
 「おもしろおかしく」を社是に掲げる同社は、他社にはみられない独自の企業文化を有していることで知られる。 同社は、その企業文化が培ってきた人材や技術といった「見えない資産(財務諸表に載らない資産)」を大切にし、それに対する投資を継続して行ってきた。同社は、「変えること」と「変えないこと」を明確に区別した経営を行っていると明言しているが、「変えないこと」というのがまさに「見えない資産」への投資を継続することを意味している。短期的な景気変動に左右されることなく、長期的な視点に立って「見えない資産」を育成し続けることが、長期的な企業価値向上につながるという考え方である。
 同社が「見えない資産」という言葉を、投資家向けのIR資料で初めて使用したのは、筆者の知る限り2006年3月に発表された中長期経営計画にまで遡る。同計画では「見えない資産」の育成を、経営戦略の3本柱の1つに据えている。具体的な取組みの内容としては「企業文化を中心に据えた経営の推進」「技術力の強化」「グローバル人財の育成」などが挙げられている。以来、毎年度のアニュアルレポートにおいてもその重要性や、取組みの進捗状況が繰り返し報告されてきた。
 通常のCSR報告書やサステナビリティレポートであれば、人材の重要性が述べられることは少なくないが、投資家向けのIR資料であるアニュアルレポートにおいて、「見えない資産」育成の重要性が一貫して述べられてきた点は特徴的である。同社が企業価値向上への効果を強く意識して取り組んできたことがうかがえる。業績の面でも、先の中期経営計画が公表された2006年3月期の売上高が1,056億円だったのに対し、直近の2013年12月期には1,381億円となっており、2014年12月期には過去最高の1,500億円を見込むなど好調である[1]。

(2)「“はかる”技術で社会に貢献」がスローガン―社会的課題解決に軸足を置いた事業展開
 同社のもう一つの特徴は、社会的課題解決に軸足を置いた事業展開である。分析・計測技術に強みを持つ同社は、「“はかる”技術で社会に貢献」をスローガンに掲げて事業に取り組んでいる。同社を代表する製品の一つに、エンジンの排ガス計測装置がある。大気汚染対策のための規制を追い風に、市場での存在感を強めてきた。1986年には、本格的なデジタル化に対応した計測装置「MEXA-9000」を開発し、1995年には、国によって異なる排ガスの検査基準に統一的に対応した「MEXA-7000」を開発するなど、革新的な製品を相次いで投入してきた。現在、同社製品の世界シェアは80%を占めている[2]。
 足元でも世界的な大気汚染問題の深刻化が同社製品への需要を一層高めている。例えば、2013年9月、中国はPM2.5対策を念頭に「大気汚染防止行動計画」を公表し、排ガス規制の強化を打ち出しており、実績があり信頼性の高い同社製品の注文が足元でさらに増加している状況だという[3]。さらに、同社は自動車計測の領域に留まらず、「人の健康・安全」「新素材・新エネルギーの研究開発」「製造・プロセス現場の生産性向上」「品質管理」など様々な領域で、“はかる”技術を提供することによって社会的課題解決に貢献する姿勢を打ち出している。

 堀場製作所における「見えない価値」育成と、社会的課題解決に軸足を置いた事業展開の取組みは、言い換えれば、従業員並びに社会との共有価値を創造する取組みといえる。経営トップによる強いコミットの下で、これらの取組みを継続していこうとする同社の姿勢は、長期投資家にとって好材料といえるだろう。

[1]売上高の予想値は、2014年8月7日付け「2014年12月期第2四半期決算説明会資料」に基づく。
[2]統合報告書「HORIBA Report 2013」に基づく。
[3]2014年8月7日付け「2014年12月期第2四半期決算説明会・質疑応答の要約」に基づく。

*この原稿は2014年8月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
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