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アジア・マンスリー 2014年8月号

【トピックス】
地方債の発行規制緩和を進める中国

2014年08月01日 佐野淳也


地方政府債務の償還ピークの平準化や債務の透明性向上を図るため、中国政府は地方債の発行規制を緩和した。ただし、自主起債承認枠の規模などを勘案すると、その効果に過度な期待は禁物であろう。

■10カ所で試行措置を実施
5月、中国の財政部は、地方債の自主起債に関する通知を発出した。同通知によると、地方政府が債券を起債し、利払いや元本の償還を行う主体と位置付けられた。これまで行われてきた財政部による地方債の代理発行(2009年~)や地方債の自主的な試験発行(2011年~)においては、財政部が利払いおよび償還を代行(後日、地方政府が財政部に支払う)していたことから、地方政府の裁量拡大につながる方針転換を打ち出したといえる。

この試行措置を実施する地域も、これまでの6カ所から10カ所に拡大された。とりわけ、寧夏回族自治区と江西省を対象地域に追加したことについては、経済発展で先行する沿海部のみならず、内陸部でも地方債の発行規制緩和を推進したい中央政府の意向の表れとして注目される。

■償還ピークの平準化や債務の透明性向上が主たる狙い
今回、地方政府の起債に対する規制を一段と緩和した背景には、①債務償還ピークの平準化、②地方政府債務の透明性向上の2点を指摘できる。

中国の地方財政にとって、償還ピークの平準化は喫緊の課題となっている。2010年末時点および13年6月末時点の地方政府債務残高を償還期限別にみると、2011年のピークを短期の借り換えで対応したためか、今年2014年に再び償還のピークを迎える。

地方財政が悪化するなか、地方債による債務の借り換えを促し、償還圧力を翌年以降に分散させる平準化は、緊急措置としてやむを得ない対応といえよう。ただし、短期債中心の借り換えでは、次の償還のピークがすぐに到来し、平準化でかえって破たんリスクが高まりかねない。

そこで財政部は、5月の通知で10年物の債券発行を初めて10カ所の地方政府に認めた。さらに、5年物、7年物、10年物の地方債発行比率を4:3:3に設定し、起債の中心を長期債にシフトさせるよう地方に求めている。その一方、これまでの地方債の自主的な試験発行で認めてきた3年物は、自主起債の対象から除外された。これらはいずれも、2018年以降に地方政府債務の2回目のピークを迎えることを見越した対応策といえる。

地方債は地方政府債務の透明性向上にもつながる。従来、予算法第28条で地方債の発行が原則として禁止されるなか、地方政府は「地方融資平台」と呼ばれる傘下の企業を使って資金を調達した。地方融資平台に対する管理強化が打ち出されると、シャドーバンキング(銀行以外からの金融機関からの借り入れや各種の出資金募集)から資金を調達するようになった。

こうした手法は財政を補うかたちで短期間かつ大量の資金調達を可能にし、大型景気対策の推進、都市インフラの整備に貢献した半面、曖昧な事業内容や資金調達過程における不透明性が地方財政に対する懸念を増幅させる大きな要因にもなっていた。中国政府は、このデメリットの部分に着目し、シャドーバンキングや地方融資平台を通じた方法よりも透明性が高く、長期かつ低金利で資金の調達が可能な地方債の発行容認へ方針を転換したと考えられる。
地方債の自主発行拡大については、地方政府が市場での信認を得るため、情報開示や無駄な歳出の削減等に取り組む効果も期待できる。5月の通知の中で、財政部が地方政府に対して、①起債する地方債、②財政状況などに関する情報を遅滞なく公表するよう求めたのは、そうした効果を喚起するためとみられる。

■課題も多く、過度な期待は禁物
ただし、現時点で地方債の発行規制緩和に過度な期待を抱くことは禁物であろう。

第1に、発行規模が小さい。2014年に中国全体で認められている地方債発行規模4,000億元の内、10カ所の地方政府に認められた起債承認枠の合計は1,092億元にとどまっている。2014年中に償還期限を迎える債務残高は偶発債務も含めれば3.6兆元に達しており、地方債による借り換えのみで対応できる規模ではない。

第2に、対象地域がなお限られている。現在、自主発行を認められた地方は、債務残高の対GDP比が比較的低い健全なところばかりである。残された省・自治区・直轄市の中には、債務残高の対GDP比が高いところもみられる。山東省や広東省の地方債は、国債よりも低い金利で落札されたが、今回の試行措置対象外の地方では、同様の好条件での資金調達は困難であろう。

地方債に関する規制緩和を着実に推進していくだけではなく、税収基盤の強化や中央から地方への財政移転の見直しなど、総合的な財政改革の実行が習近平政権には望まれる。
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