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「CSV」で企業を視る/(22)食への貢献と共有価値創造

2014年08月01日 ESGリサーチセンター、小島明子


 本シリーズ22回目となる今回は、共有価値創造の手法である「顧客ニーズ、製品、市場を見直す」、「サプライチェーンを再定義し生産性を高める」を通じて、「共有価値」を創造している鳥越製粉の事例を紹介する。

(1)パン業界の課題解決に貢献
鳥越製粉は、「企業活動を通じて当社を支えて頂いている全ての人に豊かさと夢をもたらし、地域社会、日本そして世界の人々の生活文化の向上に貢献し、世の中になくてはならない企業になる」という企業理念を掲げている。同社は、商品だけの販売はせず、同社の商品を使用する得意先や、最終製品を購入する消費者に対して必要なソフトウェアを添えて提供する基本姿勢を持っていることをホームページ上でも明記をしている。
昭和29年、同社では、得意先パン企業を対象に、業界で初めて「パン経営技術総合研究会」を開催した。当時、パン業界が直面していた諸問題を解決することを狙いにした。「パン経営技術総合研究会」は業界異色のイベントとして全国的にも高い評価を受けた。研究会を毎年継続するうちに、パン業界の諸問題は同社の研究会に参加すれば解決できるという評判が確立。各地から他社の得意先も参加するようになった。現在は「食品経営センター」と改称され、各業種別の実技講習会等会員各社に対して支援を行う取り組みとして継続されている。
単に小麦粉の販売だけに特化するだけでは、自社の業績は、パン業界の盛衰によって大きく影響を受ける。そこで、自社が率先してパン業界の課題支援に取組むことで、パンに関わるサプライチェーン企業の生産性向上に貢献し、自社のビジネス拡大に結びつけるというのが同社の発想だ。こうした先見性が、結果として、戦後の食料不足から現代に至るまで、パンを通じて人々の食を支えてきたともいえるだろう。

(2)社会的課題への貢献に資する商品の開発
 企業理念に掲げる「世の中になくてはならない企業」という姿勢は、独創性と創造力を活かした商品づくりにも表れている。同社では、昭和35年に日本初のフランスパン専用粉「フランス印」の開発をし、その後も、ドイツのライブレッドが繊維質に富む健康的な食品であることに着目し、昭和50年には本格的なライ麦製粉専門工場を建設するなど、新しい挑戦を続けてきた。
 最近では、予防医療に貢献する商品として、糖質を約80%カットしたパンの専用ミックス「パンdeスマート」を開発した。既に国内、欧州、米国で特許を取得している。平成24年からは、ローソンとの協力を通じて、「パンdeスマート」を主原料とした「ブランパンシリーズ」が商品化されている。「ブランパンシリーズ」は、ローソンで累計3,500万個を販売するヒット商品になっている。食卓パン、菓子パン、惣菜パンなど、各カテゴリーに「ブランパン」を揃え、糖質を気にする健康志向の顧客からの支持は高いという。ローソンのPontaデータ分析によれば、「ブランパン」のリピート率(繰り返し購入の頻度)は45.3%で、ローソンオリジナル商品で最高のリピート率を誇る。
 厚生労働省「国民健康・栄養調査」(平成19年)によれば、「糖尿病が強く疑われる人」890万人、「糖尿病の可能性を否定できない人」1,320万人を合わせ、国民の5人に1人以上が糖尿病かその予備群に該当する状況にある。糖尿病予防のためには、肥満を防ぐことが必要だとされているが、そのためには運動不足の解消や食生活の改善が必須である。低糖質の商品は、食を通じた健康という課題に正面から応じるものとして成長が期待されるだろう。

鳥越製粉では、企業理念の「世の中になくてはならない企業」という姿勢を貫き、サプライチェーン企業への支援や社会に貢献する商品開発に取組み続けている。ステークホルダーや社会が抱える課題を敏感に感じ取り、自社としてその課題の解消に積極的に取組むことが、企業の成長にもつながっている事例だといえる。

参考情報
[1]鳥越製粉株式会社ホームページ
[2]マイナビ2015 鳥越製粉社長のコメント
[3]株式会社ローソンホームページ
[4]厚生労働省ホームページ

*この原稿は2014年7月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
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