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アジア・マンスリー 2014年5月号

【トピックス】
全人代で示された中国の財政改革

2014年05月01日 佐野淳也


3月の全人代では、財政改革に関する重要方針が示された。モラルハザードの防止や他の改革との一体的な推進などを通じて、財政改革を方針通り実現できるのか、習近平政権の実行能力が問われよう。

■「積極的な財政政策」を継続しつつ、改革を推進
3月の全国人民代表大会(全人代)では、中国政府が2014年通年の成長率目標をどの水準に設定するのか、デフォルトリスクにどう対応するのかといった事項が注目を集めた。こうしたなか、財政についても、中国経済の成長持続や健全な発展を展望するうえで重要な方針が示された。

財政政策の面では、「積極的な財政政策の継続」を掲げている。「積極的」という表現から、公共事業などへの支出規模を大幅に積み増すと連想しがちだが、習近平政権の意図は少し異なる。

確かに、2014年の財政赤字(中央+地方)は過去最大の1兆3,500億元を計上している。もっとも、財政赤字の対GDP比は2.1%程度と見込んでおり、4兆元の大規模景気対策を打ち出した2009年(2.3%)などの水準を下回っており、経済成長のために財政赤字の急拡大を厭わない姿勢を示したとの見方は首肯できない。

加えて、李克強首相の「政府活動報告」や「2014年予算」の説明は、「積極的な財政政策」に伴う具体的な措置を明示していない。むしろ、政策の連続性重視や事前の微調整による安定成長の持続を強調するとともに、財政改革の推進に重点を置いている。現行路線を大きく変えずに経済の安定を確保しつつ、財政改革を進めたい政権の意向が反映された財政政策方針といえよう。

■財政改革の3つの方向性
財政改革の主な方向性としては、①企業の税負担軽減、②税制立法化の推進、③地方政府債務リスクへの対処の3点を指摘できる。

企業の税負担軽減策における最大のポイントは、営業税から増値税(付加価値税)への転換を引き続き進めることであろう。控除対象範囲の違いにより、営業税に伴う企業の納税負担は増値税よりも総じて重い。サービス産業振興の観点から、政府は営業税から増値税への転換を段階的に実施してきたが、14年についても転換業種を拡大する方針である。具体的には、鉄道運輸業と郵政サービス業での税目転換を全国で実施するとともに、電気通信業についても営業税から増値税への税目変更準備を進めることが明記された。なお、それ以外の軽減策として、中小企業の税制優遇措置の拡充があげられている。

税制立法化の推進については、①環境保護税関連、②不動産関連の2項目が示された。とりわけ、不動産関連税制の立法化は、地方財政収入の水準維持と不動産取引に偏重した収入構造からの脱却を両立させるために重要な取り組みと位置付けられる。

不動産税制改革関連の報道や全人代期間中の楼継偉財政部長(大臣)の記者会見によると、不動産関連の税目は、全人代での審議や採択の不要な(暫定)条例を根拠法としているため、条例に対する「制約の少なさが弊害にもなっている」(楼財政部長)。そこで、全人代での審議・採択を経て施行される法律に基づき、不動産に係る税金を徴収するための準備作業が進められている。作業に際し、不動産の取引段階で多く課税され、所有に係る税金は少ないという現状の是正が検討されている。時間はかかるものの、不動産税制関連の法律が施行され、個人所有の住宅への課税を全面実施(現在は、上海市と重慶市の一部の住宅で試験的に実施)した場合、地方財政収入の水準維持と不動産取引に偏重した収入構造からの脱却は両立可能となろう。

地方政府債務リスクへの対処に関しては、地方債を中心とした債務構造への転換が掲げられた。
地方債の発行は中央政府によって厳しく制限されている。そのため、地方政府債務(2013年6月末時点)を資金調達手段別にみると、銀行融資が残高全体の半分強を占める。また、リスク管理の観点から、地方融資平台(地方政府系の資金調達会社)に対する銀行融資規制が強化されたことから、地方政府はシャドーバンキング経由で短期高金利の資金を調達するようになった。半面、債券発行による債務残高は、地方融資平台が発行したものなどを含めても、全体の10.3%にとどまっている。

こうしたなか、地方政府債務の償還期限が2014年に山場を迎えることから、シャドーバンキングや銀行融資に代わる資金調達手段が早急に必要な状況となっている。

このような事情や債務に関する透明性向上などのメリットを踏まえ、中央政府は地方債による債務の借り換えを容認するとともに、債務構造を地方債主体に変えていくとの新方針を全人代で打ち出したといえよう。

■習近平政権の対処能力が問われる段階へ
地方政府債務問題では、債務規模の抑制や地方政府債務を予算管理に組み込むといった管理強化策も示された。しかし、上述した地方債発行を容認する方針によって、地方幹部のモラルハザードが誘発された場合、一連の管理強化措置は十分機能しない可能性もある。不動産関連税制の立法化でも、住宅所有者を把握するために不動産登記制度のさらなる改革が不可欠である。
こうした課題を克服しつつ、財政改革を方針通りに実現できるのか、習近平政権の実行能力が問われよう。
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