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植物工場の産業創出に求められる技術革新

2013年08月27日 木通秀樹


 先日、機会を得てオランダの植物工場を視察することができた。オランダでは、従来の中小規模の農家を中心とする農業と異なる産業として植物工場産業が位置づけられ、活況を呈している。12年程前にトマトの効率的な栽培方法が開発された。その後、生産力を大幅拡大し、現在では有力な輸出品目となっている。もともと農業生産力は強くなかったが、植物工場の高く安定した品質によって欧州の中では強力なライバルであるスペイン産のものより、ワンランク上の高い評価を得ている。

 オランダの植物工場産業の強みの一つは、徹底した生産管理技術にある。露地栽培のノウハウとは分離して、植物工場における栽培技術を集中して研究開発し、栽培の自動化に成功している。例えば、光合成の量を制御するためには、光量のみならず、葉からの水分の蒸散を管理する必要がある。温度や湿度が低ければ蒸散速度が低下するのは当然としても、温度が高くなると気孔がふさがることで蒸散速度が低下するという特性までも考慮して、最適な管理を行っている。品種などにより異なる特性をデータ化して最適管理することは、新品種の分析を行う研究開発者のみならず、それを実装する事業者まで高いレベルの品質管理の姿勢が必要となる。この生産管理に対する技術や姿勢は学ぶべきところが大きい。

 しかし、この技術力がオランダ植物工場産業の成長の危機を招く原因ともなっている。オランダでは、トマトの開発に集中するあまり、トマトに代わる次のリーディング商品を生み出せないでいる。必要なのは技術革新である。農業全般における技術革新の速度は他の産業に比べて遅い。これは、技術革新にとって最も重要な機能である他分野の異種技術混合が進みにくいことが要因の一つであると考えられる。これまでの開発では、ワーヘニンゲン大学などを中心とした農業技術の専門家が集まる一大技術開発地域がリードして成功してきているが、食品産業に特化することで、多様性の効果を減じているのではないだろうか。

 日本の植物工場産業は、ICT企業との連携によってデータ蓄積が進もうとしている。様々な知恵と価値提供者を集積させる試みには期待ができる。ただし、情報の取得方法が重要である。新たな価値を生み出す情報を掘り起こし、技術革新を行うためには、農業分野に限らず、様々な視点を組み合わせる必要がある。新たな産業創出の起点では、このような競争力を確保できる体制を構築することが求められる。


※メッセージは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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