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アジア・マンスリー 2014年3月号

【トピックス】
拡大する中国内陸部の消費

2014年03月03日 関辰一


これまで、中国の内陸中小都市では経済高成長の恩恵を十分に享受できなかったが、近年、地域間の所得格差が縮小し、消費が急拡大している。企業の内陸移転に伴い内陸部の消費は一段と拡大する見通し。

■高成長の内陸部消費
中国が投資主導経済から消費主導の発展に転換できるかどうかが注目されている。この成否を巡り、一部では「地域間の大きな所得格差を勘案すると、今後、中国では持続的な消費拡大は望めない」という見方がある。

確かに、鄧小平が提起した「先富論」に基づき、一部の地域が先に豊かになったものの、多くの地域は大きく後れを取る状況が続き、全体でみると中国経済は高成長を遂げたにもかかわらず、絶対的多数の内陸中小都市の人々はその恩恵をそれほど享受できずにいた。このため、先進地域の高成長が終わると、全国の消費拡大も一巡するという見方もあながち否定できない状況であった。

しかし、2000年代後半から、様相は大きく変化した。地域間の所得格差は縮小に向かっており、内陸部が消費拡大のけん引役になっている。すなわち、内陸中小都市の人々が経済成長の恩恵を遅ればせながら享受し始めており、その結果、消費需要の底上げがみられている。

実際、中西部の小売売上高は高い伸びを持続し、全体に対するシェアは2000年代半ばから上昇している。東部の上海市、北京市、広東省の小売売上高伸び率は2005~2012年においてそれぞれ年平均+13.9%、+14.9%、+16.2%にとどまる一方、中西部の四川省、湖北省、安徽省はそれぞれ+17.5%、+18.1%、+18.2%に達した。

この背景には、内陸中小都市の所得水準が上昇してきたことがある。2000年代半ば以降、中西部の賃金は一貫して東部を上回るペースで上昇している。

加えて、農村から流出した人々が沿海部大都市よりも、内陸中小都市に向かい始めたことも一因である。農民工の中西部への流入ペースは、東部を大きく上回っており、国家統計局の「2012年全国農民工監測調査報告」によると、2012年の東部、中部、西部の農民工はそれぞれ前年比+2.7%、+6.0%、+6.3%増となった。

こうした内陸中小都市の所得水準上昇をもたらしてきたのが、企業の内陸シフトである。固定資産投資の内訳をみると、中西部での民間企業の投資が2000年代半ばから急拡大し、中西部の全体シェアは2005年の38.5%から2010年に51.7%へ上昇した。

■持続拡大が見込まれる内陸部消費
今後を展望しても、以下3点により、企業の内陸シフトが続くと見込まれる。第1は、沿海部の低成長である。これまで、沿海部は加工貿易により高成長を維持してきた。安価で良質な労働力を拠り所に、アジア諸国から原材料を輸入し、沿海部で加工し、欧米へ輸出するというビジネスモデルが発展した。ところが、近年人件費の大幅な上昇により、沿海部は生産拠点としての魅力が低下している。加工貿易は成長エンジンとしての役割を果たすことができなくなりつつあるため、沿海部では低成長が続く公算が大きい。

第2は、内陸部の消費市場としての魅力上昇である。上記のように、内陸部では所得上昇に伴い、消費需要が急ピッチで拡大している。こうしたなか、卸売・小売業や運輸・保管業、宿泊・飲食サービス業などのサービス業が内陸で投資を拡大すると見込まれる。加えて、最終消費地の近くで生産する「地産地消」を推進する製造業も増加するであろう。

第3は、内陸部の依然として安い人件費である。これまで、紡績糸や軽工業品の紙・段ボール、より高い技術が求められる冷蔵庫、パソコン、集積回路などの生産拠点が沿海部から内陸部に徐々にシフトしてきた。当面、安い人件費がインセンティブとなり、工場をシフトさせ、内陸を国内市場向けの生産拠点とする動きが続くと見込まれる。

このように企業の内陸シフトが見込まれるなか、内陸部では人手不足が続き、賃金は高い伸びを持続する可能性が高い。実際、中西部の1人あたり可処分所得の対東部比は、2000年代半ばから上昇し、内陸-沿海の所得格差は緩やかに縮小している。

さらに、農民工の内陸流入が続くと見込まれることも内陸の消費拡大に寄与する。2012年時点の農業部門の従業者数は2億5,773万人と全体の33.6%にのぼる。そのうちの7割は中西部に居住する。地理的に近く、また求人倍率が高く、仕事が見つけやすい内陸部に流入する動きが続く公算が大きい。

このようにみると、内陸部消費は、今後も持続的に拡大し、中国が消費主導の成長モデルに転換していく上での一つの柱になると期待される。
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