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アジア・マンスリー 2014年3月号

【トピックス】
強まる韓国の中国との経済関係

2014年03月03日 向山英彦


2013年に韓国の対中輸出依存度が過去最高になった。韓国は中国との経済関係を強めているようにみえるが、企業間のサプライチェーンの形成やその変化が貿易の拡大につながっていることにも注意したい。

■2013年に韓国の対中輸出依存度が過去最高に
1992年の国交正常化以降、韓国と中国との貿易が拡大してきた。とくに2000年代には、WTO(世界貿易機関)に加盟(2001年)し高成長が続く中国への直接投資が急増したのに伴い、韓国から原材料、部品などの生産財や資本財(機械設備)の輸出が誘発されたほか、中国国内の需要拡大により消費財の輸出も増加した。02年から04年にかけて対中輸出は前年比30%以上の伸びを続けた結果、03年には中国が米国を抜いて韓国の最大の輸出相手国となった。また、中国からの輸入も増加して、07年には日本を抜き最大の輸入相手国となった。

その後、中国の成長鈍化と中国以外の新興国向け貿易の拡大などにより、対中輸出依存度と対中輸入依存度がやや低下したが、足元では再び上昇している。とくに13年の対中輸出依存度は26.1%と過去最高になった。これには、①中国の景気持ち直し、②中国以外の新興国の成長減速、③欧州向け輸出の回復の遅れなどが影響したと考えられる。

韓国の対中経済関係が再び強まる傾向は直接投資面にもみられる。2000年代後半に総じて減少傾向にあった対中直接投資額が13年に前年比+30.5%となった。ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国向けが減少したこともあり、13年はASEAN諸国向け直接投資額を4年ぶりに上回った。

さらに13年は「円安・ウォン高」と日韓関係の悪化により、日本からの観光客数が前年比▲21.9%となったのに対して、中国からの観光客数は+52.5%となり日本を抜いて最多となった。

■重視される対中外交
中国が韓国にとって最大の貿易(かつ最大の貿易黒字)相手国になった上、安全保障面(とくに朝鮮半島情勢の安定)で重要性を増したため、近年、韓国政府は中国を重視する外交を展開している。このことは、朴槿恵大統領が就任後の首脳会談の相手に、米国の次に中国を選んだことに表れている。2013年6月28日に発表された共同声明では「戦略的協力パートナーシップ」を充実させること、そのために、①政治・安全保障分野の戦略的意思疎通を強める、②経済、社会分野の協力を一段と拡大する、③両国民間のさまざまな形の交流を促進し、両国の人文(人と文化)の結びつきを強める活動を積極的に推進することが明記された。

またFTA(自由貿易協定)締結の動きをみると、韓国は日本とのFTA交渉(2004年11月以降中断)再開に力を入れるよりも、中国とのFTA交渉を優先した。韓中FTA交渉は12年5月に開始され、13年9月上旬にモダリティに関して基本合意に達した(貿易品目の90%、輸入額の85%で関税を撤廃する予定)。対中重視の姿勢は通貨スワップ協定をめぐる動きでも確認できる。欧州債務危機後のウォン急落を受けて日本と韓国との間で拡充された分が延長されずに終了したのに対して、中国との通貨スワップ協定(2014年10月に期限を迎える64兆ウォン)は3年延長することで合意した。

■貿易拡大の背後にある企業のサプライチェーン
このように、韓国は中国との経済関係を強めているようにみえるが、企業間のサプライチェーンの形成やその変化が貿易の拡大につながっていることにも注意したい。

2013年の韓国の対中輸出上位3品目(HS4桁ベース、括弧内の数字はコード番号)は、①集積回路(8542)、②液晶パネル(9013)、③環式炭化水素(2902)であった。液晶パネルが上位にあるのは、中国での薄型テレビの生産拡大に伴い、中国で調達できない液晶パネルを韓国から輸入していることによる(ただし最近、中国企業による生産が開始)。

自動車部品(8708)は輸出上位8番目である。現代自動車にとって中国は最大の市場となっており(13年の地域別販売台数は、①中国102.7万台<前年比+21.2%>、②米国72.1万台<+2.5%>、③韓国64.1万台<▲4.0%>)、中国での生産拡大(現地に3つの工場を有しており、現代モービスをはじめとする主要な部品メーカーも進出)に伴い、中国国内では調達できない部品の輸出が増加していると考えられる。

他方、中国からの自動車部品輸入額も増加しており、2012年には日本を抜き最大の輸入相手先になった。輸入相手先の詳細は不明ながら、現地で生産している韓国系企業が多く含まれると推察される。

 さらに興味深いのは積層セラミックコンデンサの動きである。積層セラミックコンデンサはセラミックスの誘電体と金属電極を多層化することにより小型・大容量化を図ったチップ型コンデンサで、携帯電話に多く搭載されている。
 全体の輸入額が増加基調で推移するなかで、中国からの輸入が急増している。2013年の輸入相手国上位は日本、中国、フィリピンの順である。

韓国でも近年現地生産(日本企業を含む)が開始されている。にもかかわらず輸入額が増加しているのは、スマートフォンの生産拡大で需要が急拡大している、あるいは高品質のもの(より小型で大容量)を輸入している、いずれかによるものであろう。輸入先は不明であるが、一部の日本企業が中国とフィリピンに生産拠点を有していることを踏まえると、そこからの調達という可能性もある。そうだとすれば、企業の生産調達のグローバル化に伴い、貿易関係が変化していることを示すものである。

以上のように、二国間の貿易関係を「国家間の関係」としてだけではなく、生産調達ネットワークの視点で捉え直していくことは、アジアの経済統合を考える上で重要であろう。
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