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アジア・マンスリー 2014年1月号

【トピックス】
中国「三中全会」で採択した構造改革方針

2014年01月06日 佐野淳也


習近平政権は、党主導で経済構造改革を中心とする諸改革に取り組む方針を示した。三中全会で採択された構造改革方針から、権限の見直しによる「小さな政府」への転換が主要な方向性として読み取れる。

■党主導で経済構造改革を推進
2013年11月、中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(三中全会)が開催された。同会議の終了後に公表された公報(コミュニケ)や「改革の全面深化に関するいくつかの重大な問題についての中共中央の決定」(以下、「決定」)からは、習近平政権がどの分野の改革を重視し、どのような措置を講じていこうとしているのかなどを読み取ることができる。
注目されるのは、改革推進に向けた習政権の決意である。例えば、「重要領域」(国有企業の収益を上納させ、民生向上用の財源に充てる比率を30%に引き上げることなど)において、2020年までに具体的な成果をあげることが明記された。また、「改革全面深化指導小組(グループ)」という組織が新設された。これは、改革を政府に任せきりにせず、党監視の下で行うことを強調する狙いがある。今後、改革の全体設計や進捗状況の管理・評価は、このグループが行うことになるであろう。
「決定」には、治安や司法を含む、幅広い領域の改革方針が盛り込まれた。そのため、どの分野の改革に重点が置かれているのかが把握しにくい。一見すると、社会関連の分野や政治・行政・法律関連分野に関する言及が目立つ。しかし、両分野には経済構造改革に資するものが多く含まれている。この点を踏まえ、全60項目の記載内容を改めて整理すると、最も多くの項目を占めるのは経済構造関連である。これは、経済制度の改革が諸改革の重点という習近平政権の姿勢を裏付けるものといえる。

■権限見直しによる「小さな政府」志向が最重要ポイント
個別の政策の中では、1人っ子政策の緩和に対する報道が際立っている。「決定」では、夫婦のいずれかが1人っ子の場合、2人目の出産を認める措置を「実行に移す」と明言した。生産年齢人口(15~59歳)が2012年に減少へと転じ、今後も規模や全人口に占める割合の低下が続くと予測されている。少子高齢化対策の一環として、1人っ子政策を緩和することは、適切な対応と評価できよう。ただし、夫婦の一方が1人っ子であれば、2人目の出産を認める措置は一部の地方で導入済である。出産・育児に対する価値観の変化や費用の増大傾向なども勘案すると、今回の「決定」を契機に、出生率が大幅に上昇すると期待するのは早計であろう。
他方、1人っ子政策の転換などに比べて注目度はあまり高くないものの、従来よりも踏み込んだ方針や措置を掲げている分野がある。
その1つは、公平な競争環境の創出である。「決定」は、経済活動に対する許認可権限について、国家の安全や環境保全等に関わるものを除き、政府は企業の投資プロジェクトの審査・認可を行わない方針を打ち出した。ここまでは総じて従来の方針を踏襲しているが、許認可権限の見直しを進め、「ミクロの問題(企業や個人の経済活動)に対する中央政府の管理を最大限減らす」との文言も挿入された。経済を活性化させるために政府の介入を可能な限り減らすべきという習政権の理念が鮮明に映し出されたといえよう。
「決定」では、民間企業などの発展を奨励するとしながらも、国有企業を主に意味する公有制が中心であり、その強化を目指す方針も打ち出された。これは、公平な競争環境を創出し、民間企業の活性化を図るとした政策と相反しているようにみえるが、改革への抵抗を高めないよう配慮しつつ、競争力の強化に向けた企業改革を進めたいという習近平政権の考え方を示したものとらえるべきであろう。
もう1つは税制改革である。「決定」では、「直接税の比率を徐々に引き上げる」方針が示された。所得分配制度の見直しによる格差是正が喫緊の課題であることを考慮すれば、高所得者層に対する課税強化を示唆したものと解釈できる。また、地方税体系の改善に関連して、不動産関連税制(地方の財源)の法整備と改革加速が明言された点も、新しい取り組みの1つと位置付けられる。
さらに、政府債務、とりわけ実態の把握が難しい地方政府債務の問題をとりあげたことも、これまでの方針と異なる特徴である。都市インフラ整備の資金調達手段として地方政府による債券発行を認める一方、業績評価において債務の新規増加額の多寡を重視すると明記した。地方政府が自身の責任で債務の規模を抑制するよう促す狙いがあると考えられる。
 これらを総合すると、財源を含む権限の見直しによる「小さな政府」の実現が習近平政権の経済構造改革における最重要ポイントと位置付けられよう。

■改革実行段階で適度なスピード感が不可欠
三中全会での承認を経て、経済構造改革は実行段階へと入った。20年前の三中全会では、決定に沿った具体的な財政・金融制度の変更等が翌年以降相次いで実施された。しかし、10年前の三中全会で採択された改革はほとんど進まず、課題は胡錦濤前政権から習近平政権へ引き継がれた。習近平国家主席は、反発や拙速な実施に伴う失敗のリスクを考慮し、改革を慎重に進めると表明しているが、利害調整に手間取ると、改革が骨抜きとなる可能性もある。適度なスピード感を持って成果を積み重ねることが、構造改革を進めていくにあたっての不可欠な条件である。
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