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CSRを巡る動き:イギリス政府による「ビジネスと人権に関する指導原則」の実践 

2013年11月01日 ESGリサーチセンター


 日本では、人権の擁護を進めるための「人権委員会設置法案」及び「人権擁護委員法の一部を改正する法律案」が2012年11月に国会に提出されたものの、衆院の解散により同月中に廃案となりました。この法案については「CSRを巡る動き:人権委員会と企業の社会的責任」で紹介したとおりです。それ以来、国内で人権に関する主だった動きといえば、2013年6月に「いじめ防止対策推進法」が成立したことがあげられる程度です。ただ、いじめ防止対策推進法は文部科学省が所轄する「児童生徒に対するいじめを対象にした法律」であり、一般的な企業活動への影響はあまり大きくないといえるでしょう。

 他方、イギリスに目を転じると、2013年9月、外務連邦大臣が『グッドビジネス:国連「ビジネスと人権に関する指導原則」の実践』という文書を国会に提出しました。これは、同指導原則を受けて官民一体で人権擁護を推進する活動の第一歩と位置付けられています。

 その序文を読むと、「個人の自由の尊重が経済発展につながる」、「企業が人権について責任ある行動を取ることが、従業員、顧客、コミュニティ等との良い関係を通して市場の持続可能性をもたらす」など、人権擁護が市場や経済のためになる、というメッセージの明快さに驚かされます。そして、人権尊重を巡る様々な企業の取組み事例が紹介されています。その内容は、企業の評判やブランド価値の向上、顧客基盤の強化、優秀な従業員の確保、業務継続リスクの軽減(社内のストや紛争等の回避による)、人権侵害による法律違反リスクの軽減、機関投資家へのアピールなどに通じたとする例です。

 イギリス政府自身は、公共調達における配慮、貿易金融における配慮などを制度化しています。また、紛争や暴動が多く企業活動が困難な国や地域において、なお事業を行う企業が、こうした国や地域での安定、成長、開発や人権擁護にとって重要な役割を果たすと位置付け、OECDによる多国籍企業のためのリスク発見ツールの実践を支援するとしています。業種に固有の施策では、「民間軍事サービスプロバイダーのための国際行動規範」の支援、採掘関連業種における「安全と人権に関するボランタリー原則」の強化などが目につきます。ここでは政府が業種特性を踏まえて自主行動を促していると理解できます。

 もう一度日本の状況に戻ると、ビジネスと人権をテーマとしたセミナー等はこのところ活況を呈していると聞こえます。人権に関する企業の関心はある程度、高まっていると言えるでしょう。しかし、先んじて問題を認識して取り組もうとする意欲まである企業はごく少数派であるようにも感じられます。一例をあげるとすれば、2013年5月に国連「経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会」は日本政府に対して行った37の勧告のなかで、「過重労働による死及び職場における精神的嫌がらせによる自殺が発生し続けていることに懸念を表明する」と述べました。日本企業の足もとの職場においてさえも、人権問題が国際的に認知されているわけです。この問題をつらい・重いと受け止めるのではなく、いちはやく「いじめのない職場」を作ることで人材の定着・育成を実現させ、企業の競争力強化につなげたいと表明する企業の出現を期待したいと思います。

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