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アジア・マンスリー 2013年8月号

【トピックス】
増大する中国の地方政府債務

2013年08月02日 佐野淳也


地方政府債務規模は試算上制御可能な範囲内にあるものの、一部の地方では返済計画の見直しを迫られるなど、リスクも表面化している。債務不履行の回避に向け、新たな独自財源の確保が求められる。

■地方政府の債務問題が注目される2つの要因
中国経済が直面するリスク要因として、地方政府債務への関心が高まっている。この問題が注目されるようになった背景には、以下の2つを指摘できる。

第1は、地方政府系企業が「シャドーバンキング(影の銀行)」から資金を調達するようになったことである。

地方政府系企業、具体的には「地方融資平台」と呼ばれる資金調達・事業運営会社の中には、景気の減速で利用料収入が減少し、債務の返済が困難になる事例も散見される。しかし、リスク管理強化の一環として、「地方融資平台」に対する追加融資の抑制方針が近年打ち出されており、銀行からの資金調達は難しくなっている。そこで、「地方融資平台」にとっては、不動産開発事業の継続や借金返済に充てるための新たな資金調達ルートの確保が急務となっていた。

他方、銀行融資以外の手段による資金の融通を指す「影の銀行」は従来、大手国有商業銀行から融資を受けられない民間の中小企業を主な顧客としていた。しかし、「国進民退」等が進むなか、それだけでは高い収益をあげられず、新たな投融資先を探していた。こうして、両者の思惑は一致し、「地方融資平台」は「影の銀行」からの資金調達を増やすようになったとみられる。一方で、「影の銀行」は「地方融資平台」の債務不履行リスクを抱え込んでおり、「影の銀行」への懸念が高まるほど、その裏側にある「地方融資平台」の債務を含む地方政府債務問題への関心も高まったのである。

第2は、歳入の高い伸びを期待しにくくなったことである。好景気時には歳入の伸びが名目GDPの伸びを大きく上回る傾向がみられたものの、足許では成長率の低下とともに歳入の伸びは鈍化している。中低所得者層の税負担軽減等の施策も勘案すると、高成長軌道に復帰しても、これまでのような歳入の急拡大は望めず、成長によって財政問題の急速な解決を図ることは難しくなっている。その結果、中央政府債務と違ってデータが定期的に公表されず、実態を把握しにくい地方政府の債務に、内外の懸念の矛先が向かったと考えられる。

■会計監査からみた課題と債務規模試算
6月10日、審計署(会計検査院に相当)が36の地方政府債務に関する会計監査結果を公表した。末端レベルの政府はほとんどカバーされていないものの、一級行政区(省・自治区・直轄市)に限れば、31カ所中18カ所の地方政府債務(単体)を調査しており、全国規模レベルの監査と位置付けられる。

監査結果は地方政府債務の現状及び直面する課題を示しているが、特に注目されるのは次の3点である。

第1に、債務管理における二極化傾向である。2012年末の36地方政府の債務残高は、2010年末比12.9%増の3兆8,476億元であった。ただし、12の地方政府では債務の規模を縮小させている。債務収支計画の策定や債務管理規定の公表などの面でも、積極的に取り組む政府がある一方、対策を十分講じていない政府も複数存在する(個別結果は示されなかったため、詳細不明)。

第2に、資金調達構造に若干の変化がみられることである。銀行融資の占める割合が債務残高全体の78.1%を占めているものの、伸び率では10年比5.4%増と、全体の伸びを大きく下回った。半面、「影の銀行」を含む、企業・団体・個人からの借り入れ規模が2年前(10年末)の2倍超に拡大した。債務残高全体に占める割合は約6%にとどまるとはいえ、「影の銀行」からの資金調達は銀行融資(1年物の基準貸出金利は6.0%)をはるかに上回るコスト(最大で年利20%前後)を伴っており、債務不履行リスクを増大させる一因といえよう。

第3に、返済計画の見直しなど、一部の地方における厳しい状況が看取されることである。例えば、①年間の元利返済総額が土地使用権譲渡収入から返済に回される資金を超過、②高速道路収入の減少により、道路建設資金の返済を追加借り入れ等で賄うも、一部では延滞発生、といった内容が記されている。

監査結果から試算すると、2012年末の地方政府債務は約12兆元と推計できる。公表済の中央政府分と合計した政府債務残高の対GDP比は38.3%と、財政健全化の目安とされる同60%を下回り、試算上では制御可能な範囲内と判断できる。半面、一部の地方では債務延滞、さらには債務不履行リスクが表面化していることも明らかとなった。さらに、今回の会計監査自体、より深刻な財政状態の地方が対象から漏れ、債務規模の過小評価につながった可能性があることにも留意しなければならない。

■新たな独自財源の確保が不可欠
増大する地方政府債務の対応策として、地方債の試験的発行制度の拡大が進められている。地方債は他の手段に比べて即効性があり、いまのところ低金利で資金調達できることが魅力である。ただし、財政規律の弛緩を警戒してか、制度拡大の動きは緩慢であり、財政部による地方債の代理発行分を加えても年間発行規模は4,000億元にも届かない。また、これだけでは問題解決にはつながらないと判断される。現在認められた地域以外では総じて、低金利での債券発行自体が非現実的と思われる。

土地売却収入や高利での資金調達への依存度を減らすとともに、地方独自の財源確保、関連指標の定期的な公開といった地道な取り組みが地方政府債務処理には不可欠であろう。
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