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アジア・マンスリー 2013年7月号

【トピックス】
2013~14年の中国経済見通し

2013年07月04日 関辰一


中国経済は、製造業投資の増勢鈍化や不動産市場の悪化、倹約令の長期化により、景気減速が続くリスクもあるものの、2013年後半には投資抑制策の緩和を背景に、成長率は緩やかに持ち直す可能性が高い。

■1~3月の景気は足踏み
2013年入り後、中国経済の回復に足踏みがみられる。1~3月期の実質GDP成長率は前年同期比7.7%と2012年10~12月期の同7.9%から小幅に低下した。5月の工業生産は前年同月比9.2%増と依然低迷している。

この背景には以下3点が指摘できる。第1は、倹約令である。2012年11月15日に党総書記に就任した習近平氏は、翌月5日に倹約令を含む「八項目の規定」を発表し、党改革の必要性を強調した。これを受け、公費による飲食や贈呈品の購入、春節期間中の表敬訪問などを禁止する動きが地方政府に広がった。具体的な倹約令が発せられたタイミングが、贈呈品などの需要が高まる春節の前であったことから、高級レストランや百貨店は大きな影響を受けた。実際、大手小売業の消費財売上高は、2012年通年の前年比14.8%増から2013年1~3月期の同11.1%増に低下した。大手飲食の売上高は同12.9%増から▲2.6%へとマイナスに転じた。5月時点でも、倹約令の影響は色濃く残っている。

第2は、政府による投資抑制策である。企業収益の回復に伴い、製造業では過剰生産能力を抱えているにもかかわらず設備投資を再拡大する動きがある。こうしたなか、政府は過剰投資に対して警戒を強める姿勢に転じている。全人代ではM2の目標値を14%から13%に引き下げ、窓口指導の厳格化により銀行融資残高の伸び率は2012年秋以降低下に転じた。この結果、製造業の固定資産投資の増勢は鈍化した。

第3は、素材メーカーの在庫調整である。春節以降、素材メーカーは在庫調整圧力の高まりを背景に生産を抑制している。鉄鋼業では、景気のV字回復を見込んで2012年秋口から増産した。しかし、実際の景気回復は力強さを欠いていたため、在庫率が上昇した。そこで、春節以降は鋼材生産を抑制した。

■2つのシナリオ
今後、政府が投資抑制策を続けるか否かにより、景気のパスは異なる。
シナリオ1は、現状維持のケースである。この場合、景気回復は腰折れとなり、成長率は4~6月期以降も低下し続ける公算が大きい。

第1に、製造業の投資は固定資産投資の3割を占めるため、その増勢鈍化の全体への影響は大きい。

第2に、不動産開発投資の増勢が鈍化に転じる見込みである。2013年入り後、不動産価格抑制策が相次いで打ち出された。政府は2月20日に①不動産価格抑制目標の設定を地方政府に求め、②上海と重慶で試行している不動産税(固定資産税)の対象地域を広げると発表した。同時に、③住宅・住宅用地の供給拡大、④低価格住宅の供給加速、⑤市場管理の強化を指示した。さらに、3月1日、中古住宅を売却した際のキャピタルゲイン課税(20%)の徴収厳格化を要求した。3月末から地方政府が具体策を発表し、北京市は単身者による2軒目の住宅購入などを禁止した。この結果、分譲住宅の販売床面積と新設着工は2月をピークに減少に転じた。

第3に、倹約令の影響は長期化する見通しである。政府は「八項目の規定」により政府関係者の慣行を改めることで、やがては政府-民間および民間-民間の商慣行の効率性が高まることを期待している。新たな慣行が定着するまで長期間を要するため、今後も監督・倹約令の再強化が実施される可能性が高い。

さらに、これらによる需要の伸び悩みは、素材メーカーの在庫調整を長期化させることになる。
シナリオ2は、投資抑制策を緩和するケースである。窓口指導を緩和すれば、製造業の設備投資は再拡大する公算が大きい。工業企業の売上高伸び率は小幅ながら改善しつつある。他方、原材料費や人件費が緩やかな増加にとどまるなか、企業はコストの急増を回避している。この結果、工業企業の利益総額の伸び率は持ち直し、売上高利益率も上昇に転じている。企業の投資マインドが改善したため、銀行融資需要も増加している。この場合、成長率は緩やかに回復するだろう。

政府はどこまで景気減速を容認するのだろうか。7%台半ばの成長が容認の限界であろう。成長率がそれを割り込んで低下し続けると、デフレに突入する可能性が高くなり、その後の脱却が困難になるためである。実際、成長率とCPI上昇率の関係からすれば、成長率が7.0%を下回ると、デフレに陥ることを示唆する。したがって、7%台半ばの成長の時点で、金融緩和を実施し、成長率が7%を割り込むような状況を未然に防ぐ必要がある。実際、政府は2013年の成長率目標を7.5%に設定した。さらに、成長率が2012年4~6月期に7.6%、同年7~9月期に7.4%に低下した際、政策金利の引き下げを6月と7月に2カ月連続で実施した。

以上を踏まえ、2013年後半には投資抑制策が緩和され、成長率は緩やかに持ち直すと見込まれる。2013年通年では7.6%成長、2014年は7.8%成長と予想する。
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