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アジア・マンスリー 2013年4月号

【トピックス】
全人代で確定した中国新政権の経済改革方針

2013年04月01日 佐野淳也


3月の全人代は、2013年の主要経済施策などとともに、経済構造改革に向けた方針や新政権人事を承認した。習近平新政権には安定成長を図りつつ、改革を推進する強い実行力が求められる。

■例年以上に重要な今回の全国人民代表大会
3月に開催された全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は、2012年11月の共産党大会で発足した習近平指導部がどのような経済政策、さらには構造改革を進めるのかを国内外に表明する場として注目された。また、任期満了や共産党の要職からの引退などに伴い、国家指導者の大幅な入れ替えが見込まれていたため、どのような人事案が全人代に提出され、承認を経て胡錦濤体制から習近平体制への政権移行が完了するのかについても焦点となっていた。これらの理由により、今年の全人代は例年以上に注目され、重要な意義があったといえる。

■玉虫色ながら発展方式の転換や都市化を推進
3月5日、温家宝首相(当時)が全人代で「政府活動報告」を行った。報告掲載内容から、習近平新政権の経済政策及び経済構造改革の主な特徴として、次の3点が指摘される。なお、2月23日の共産党中央政治局会議において、同報告が討議され、全人代で報告を審議することが同意された。習近平新政権の意向は、「政府活動報告」に反映されていると判断できる。

第1の特徴は、習近平指導部が掲げる「持続的で健全な経済発展」を念頭に置いた目標設定がなされていることである。

例えば、2013年の実質GDP成長率目標は、7.5%前後とし、1年前の「政府活動報告」にはなかった「前後」という文言を追加した。直近の実績(12年通年は7.8%成長、12年10~12月期は前年同期比7.9%成長)と同水準の数値目標からは、短期的な成長率の高さに固執しない指導部の姿勢がうかがえる。

さらに、貨幣供給量(M2)の伸びを13%前後とする目標も掲げている。景気対策の一環として金融緩和を実施した09年の27.7%増などと比較すれば、低目の水準である。現時点では、短期の景気浮揚手段として、金融緩和を実施する予定はないとの意思表明とも考えられる。
 他方、2013年予算案(中央+地方)では、過去最大となる1兆2,000億元の赤字を計上した。一見、大規模な財政出動で成長率を押し上げるためと解釈されるが、①営業税を増値税に変更する減税策の推進等で大幅な税収増を見込めないこと、②社会保障関連の恒常的支出の増加を財政赤字拡大の主な理由にあげている。加えて、「政府活動報告」や予算案では、インフラプロジェクトを上乗せして、高成長を確保しようとする方針は盛り込まれていない。財政政策からも、習近平新政権は高成長の追求よりも持続的な経済発展を重視しているといえよう。

第2の特徴は、玉虫色の表現も使って過剰な反応を抑えつつ、構造改革を前進させようと腐心していることである。経済発展方式の転換に関しては、消費主導型の成長を目指すことでは一致しているものの、高成長志向の地方政府は中央政府の投資抑制方針に消極的な態度を崩していない。胡錦濤前政権から引き継いだこの問題に対して、今回の「政府活動報告」は経済成長に対する投資の役割を肯定した。ただし、「現段階では」と限定し、個人消費を高める施策とともに、投資の量から質への転換も求めている。地方の自発的な対応を促し、投資主導型から消費主導型への発展方式の転換を実現したいという習近平新政権の意向が看取される。

また、李克強新首相は党内序列が上昇した2012年11月以降、都市化を内需振興の柱と位置付け、その推進を呼びかけるようになっている。こうしたなか、「政府活動報告」での扱いが注目されたものの、結局従来通りの「積極的かつ着実な都市化の推進」という表現にとどまった。大勢の人が暮らす都市としては適さない地域を乱開発する動きに歯止めをかけるためとみられる。半面、農村から都市への人口移動や農村住民の都市定住の妨げとなっていた戸籍制度の「改革加速」が明記されており、従来の曖昧な姿勢に比べれば、戸籍制度改革に正面から取り組み、都市化を進めていこうとする姿勢は前面に出ている。

第3の特徴は、格差是正に向けた積極的な取り組みの継続である。国家統計局によると、中国のジニ係数は2008年の0.491をピークに下降しており、所得格差は徐々に改善されつつあるものの、依然高止まりしている。むしろ、所得格差の拡大や固定化に伴い、人々の間には不満が蓄積されているとの指摘は少なくない。こうした状況を憂慮し、政府は2月に所得分配制度改革に関する方針を公表し、「政府活動報告」においても方針に基づく具体的措置の早期実施を通じて、所得分配の格差を縮小し、発展の成果がより公平に行き渡るよう取り組むことを明言した。

■2トップが経済改革の先頭に
3月17日の閉幕までに、国家の新しい指導者が選出された。習近平総書記が国家主席に就任し、国家、党、軍の三権のトップを独占した。党内序列第2位の李克強副首相は首相に昇格した。1998年以降、党内序列第2位の人物は全国人民代表大会常務委員会委員長、第3位は首相に就任する人事が慣例化していた。この慣例を逆転させ、習近平指導部の2トップ(習近平総書記、李克強新首相)が経済改革の先頭に立つことを印象付ける狙いがあると考えられる。

習近平新政権は、今回の全人代で承認された経済施策や構造改革に向けた取り組みの実施が求められる。安定成長を図りつつ、改革を推進する実行力が今後問われよう。
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