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アジア・マンスリー 2013年2月号

【トピックス】
重要性を増すアジアの金融資本市場と日本の役割

2013年02月05日 清水聡


アジアの金融資本市場は着実に発展しており、日本企業や日系金融機関も関わりを深めつつある。こうした中で、日本を含めたアジアの域内金融統合を推進することが重要な課題となっている。

■重要性を増すアジアの金融資本市場
不安定な国際金融情勢が続く中にあってアジアの金融資本市場は着実に発展しており、海外投資家の投資対象としての重要性も増している。例えば債券市場についてみると、特に2009年以降、国債市場において海外投資家の保有比率が急上昇している。その背景には、①先進国の金融緩和に伴い投資資金が増加するとともに金利差が拡大したこと、②アジアの債券市場や機関投資家の拡大・発展が加速していること、また、個人投資家も投資信託を通じて投資の拡大が可能となっていること、③各国の市場整備の努力やアジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)などの域内金融協力の存在が投資家に安心感を与えていること、④資本取引規制の緩和などにより海外投資家の導入が図られていること、⑤世界金融危機を経てアジア経済の回復・好調ぶりが際立ち、各国のソブリン格付けも改善方向となったためアジア投資の機運が盛り上がったこと、などがある。
加えて、アジア債券が国際分散投資の一つの手段となること、多くの先進国よりも財政状態が良好であるにもかかわらず名目金利が相対的に高いこと、経済発展に伴い長期的な金利低下や為替レートの増価が見込まれること、などが指摘できる。2000年以降、アジア債券市場の投資収益率(リスク調整後)は各国で良好に推移している。
長期債券および株式に関する域内投資比率(残高ベース)を算出すると、NAFTAやEU諸国において横這いまたは低下傾向となっている一方、アジアでは上昇している。その要因としては、アジアの実体経済面の統合が加速していると考えられること、域内投資家にとって経済が不調となっている欧米先進国の市場への投資よりも域内投資が相対的に魅力を増していること、などがあるものとみられる。一方、銀行融資に関しては、欧州系銀行のアジアに対する融資の縮小が加速し、これを域内(台湾・香港・シンガポール・マレーシアなど)の銀行が代替している。先進国において生じた危機に伴い、アジアの域内金融統合が促進されているといえよう。

■深まる日本の経済主体との関わり
アジアの金融資本市場と日本の経済主体(一般企業、金融機関、機関投資家、個人投資家)の関わりも深まっている。日本が経済成長を持続するためにはアジアとの経済関係を強めることが不可欠となっており、日本企業はアジア諸国の内需をターゲットとしたビジネスの拡大に注力している。その過程で現地通貨調達のニーズが高まり、現地で債券を発行するケースも増えてきている。例えば、リース会社がバーツ建てやウォン建ての債券を発行している。また、人民元のオフショア市場として拡大を続ける香港において、2011年以降、日本企業による点心債(人民元建て債券)の発行がリース会社、銀行グループ、商社などによって行われている。現地通貨建て社債の発行、借り入れ、為替予約など多様な方法によって現地通貨に関するリスクを管理することが、多くの企業にとって重要な課題となっている。
一方、邦銀もアジア向けビジネスを拡大しており、欧州系銀行が得意とする貿易金融やプロジェクト・ファイナンスなどの分野でシェアを伸ばしている。インフラ整備や資源開発など、旺盛な資金需要を取り込むことにより、邦銀のアジア向け与信残高は過去最高水準に達している。アジア・太平洋地域の協調融資ランキングでも、3メガ銀行の順位が上昇している。加えて、現地企業向けのビジネスも重視されるようになっており、域内の大企業を中心に邦銀の存在感が増している。

■日本に求められること
域内金融統合に対する日本の関わり方については、日本の金融資本市場にアジアの経済主体を呼び込むという側面と、前述のように日本の経済主体がアジアの金融資本市場に関わるという側面がある。2012年7月に閣議決定された『日本再生戦略』では、金融戦略の一つの柱として「アジアにおける我が国企業・金融機関・市場の地位確立」が掲げられた。そのために①アジア金融センターへ向けたわが国金融資本市場・金融機関の競争力向上、ならびに②わが国企業の国際競争力の強化支援、に取り組み、日本がアジアトップの取引所を構築するとともに国内外の資金循環の中核となることを目指すとしている。まさに、日本を含めたアジア域内金融統合の推進が政策目標となっている。これは、日本企業、日系金融機関、機関投資家、個人投資家など、あらゆる経済主体の利益に関連する課題である。
日本は、第1に、国内金融資本市場の整備に注力し、アジアの経済主体による利用可能性を高める必要がある。例えば、債券市場において発行体や投資家が市場を選択するに当たっては、発行コスト、投資収益率、市場インフラや規制に関する利便性などが判断材料となることから、より柔軟な発行や投資を可能とする市場整備により、海外の発行体や投資家にとって魅力的な市場を形成することが求められる。アジアの市場間競争が激化する中、日本市場に関する広報活動の強化、アジア企業による債券発行や株式上場の誘致、海外投資家向けの投資優遇策実施なども重要であろう。近年、先進国の金融資本市場が不安定となる一方で、韓国などの域内企業によるサムライ債の発行増加や海外投資家の日本国債保有残高の増加がみられるなど、日本市場の存在感は相対的に高まっている。こうした状況を促進できることが望ましい。
第2に、域内金融協力の場において各国の金融資本市場整備を支援し、日本を含めたアジア域内金融統合の強化に取り組む必要がある。それにより、支援を受ける側だけでなく、日本にも大きなメリットが生じる。例えば日中金融協力についてみると、2011年12月に「日中両国の金融市場の発展に向けた相互協力の強化」が合意され、2012年6月に東京市場で円・人民元の直接交換が始まるなど、進展をみせている。日本にとっては、対中ビジネスを展開する日本企業の取引コストや為替リスクを低減し資金調達・運用手段を拡大できること、円の利便性の向上や金融商品・サービスの多様化により東京市場ならびに日系金融機関のプレゼンス向上が図れること、などのメリットが期待される。また、日中金融協力は人民元の国際化を促進することになり、長期的に緩やかなドル離れをもたらすことから、域内金融統合という観点からも重要なものである。
日本が域内金融統合に参画する上では、アジアの金融資本市場や経済主体の行動に関する理解を一段と深めることが不可欠であろう。また、実体経済統合と金融統合は相乗的に進むことに留意すれば、実体経済統合を推進することが金融統合を促す面もあると考えられる。
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