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農産物輸出は「成長産業」なのか?

2013年01月06日 三輪泰史


日本農業は、デフレや人口減少に伴う国内市場の縮小に苦しんでいる。農業生産額や自給率が落ち込む中、近年農産物の輸出が注目度を増している。アジア新興国等の勢いのある海外マーケットを日本農業復活のための成長源として取り込もうという狙いだ。

安全で美味しい日本の農産物は、アジア富裕層を中心に一定の評価を得ている。和牛、コシヒカリ等は海外でも高いブランド価値を発揮しており、コールドチェーンや冷蔵・冷凍技術の向上により九州産を中心とした水産物に対する評価も高まっている。高まる現地の消費者ニーズを踏まえて、政府は農産物・食品の輸出目標を現状の倍を超える1兆円に設定し、輸出拡大の取り組みを進めている。政権交代に伴い見直される政策が多い中、農産物輸出については拡大方針が継続されており、既にいくつもの生産者、農協、輸出事業者が現地ニーズを的確に掴み、輸出ビジネスで収益を上げ始めている。

日本農業へのカンフル剤として注目される農産物輸出だが、一方で、輸出への過剰な期待感が生じていることが懸念される。輸出目標の1兆円は、しばしば農業生産額8兆円と比較して説明されるが、この輸出目標には加工食品が含まれていることは意外と知られていない。食用の農産物に限った輸出額は実は180億円弱に過ぎず、8兆円規模の農業生産額と比べると、国内農業の生産拡大に対する劇的な効果は見込めないことが分かる。農産物輸出は、TPPの議論においてしばしば議論の対象となっている。TPPの賛否はさておき、「TPPで農産物輸出のチャンスが拡大するため、TPPの日本農業への悪影響は少ない」という論調は大きなミスリードであることに留意が必要だ。

高い品質と海外の旺盛な消費ニーズに基づく農産物・食品の輸出は成長が期待される事業であることは間違いない。工夫次第で収益性の高いビジネスを作り上げることが可能であり、企業レベル・産地レベルでの新たな収益源となることが期待される。一方で、輸出は日本農業を劇的に復活させる万能薬ではない。現実を直視した、地に足がついた輸出促進策が求められる。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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