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アジア・マンスリー 2013年1月号

【トピックス】
民間製造業が担う中国内陸部の経済成長

2013年01月04日 関辰一


2000年代半ば以降、中国内陸部は高い経済成長を維持している。成長エンジンになっているのは、政府主導のインフラ開発投資というよりむしろ民間製造業の投資である。

■高まる内陸部の経済牽引力
中国の2012年7~9月期の実質GDP成長率は7.4%と、3年ぶりの低い伸びとなったものの、地域別にみると大きな違いがある。沿海部が伸び悩む一方、内陸部は高い成長ペースを維持している。内陸部の成長率が高いのは、固定資産投資が活発に行われているためである。
内陸部の投資主導成長が中国経済の牽引役になっている構図は、2000年代半ばからみられる。名目GDPに占める内陸部のシェアは、2005年の40.5%から2011年には43.8%に上昇した。
なお、ここでは東部11省・市を沿海部、中西部20省・市・自治区を内陸部と定義する。

■内陸部の投資主導経済
内陸部の投資主導の高成長が持続的なものか、政府主導のインフラ開発投資が内陸部の成長エンジンになっているのではないか、民間企業は高い物流コストなどを懸念し内陸部への進出に躊躇しているのではないか、などの疑問に答えるために、中西部の固定資産投資についてみると、以下の3つの特徴がみられる。
第1に、2000年代半ば以降の投資拡大は、製造業が牽引役となっている。中西部における製造業の固定資産投資拡大ペースは、2005年から2010年にかけて4.8倍とインフラ開発投資の3.1倍を大きく上回る(右頁図)。同期間の固定資産投資の伸びに対する寄与率をみても、製造業投資は32.5%とインフラ開発投資の28.5%を上回る。一方、東部の製造業投資の増加ペースは同期間において2.6倍と中西部を下回っている。この違いが、近年の中西部の名目GDPシェア上昇に大きな影響を与えている。
内陸部の製造業の投資が2000年代半ば以降急拡大した背景として、まず低金利が指摘できる。2006~2010年の実質金利は平均3.0%と、2001~2005年の同4.2%よりも低くなっている。新しい設備の購入や工場建設にあたり、2000年代後半には安いコストで資金を調達することができたといえよう。
また、インフラ整備の進展も挙げられる。2000年代前半においては、道路・鉄道・港湾・空港などが未整備な状況であったが、インフラ整備が進んだ2000年代半ば以降、製造業の中西部進出の物流コストやインフラに対する懸念は緩和している。
第2に、民間企業は沿海部への投資も増やしているものの、内陸部への投資をより多く増やしている。全国の民間企業の固定資産投資に占める内陸部のシェアは2005年の38.5%から2010年に51.7%へ上昇した。
この背景には、割安な人件費がある。賃金の代理指標である1人あたり名目地域総生産をみると、2011年の中西部の平均は4,470ドルと東部の8,133ドルの約1/2にとどまる。
第3に、民間製造業が中西部で固定資産投資を急拡大した結果、多くの工業製品において内陸部の生産拡大ペースが沿海部を上回っている。例えば、中西部の紡績糸生産量の2005~2010年の年平均増加率は17.0%、東部は同11.7%であった。軽工業品の紙・ダンボールについても、中西部が10.8%と東部の9.1%を上回った。より高い技術水準が求められる冷蔵庫、自動車の生産に関しても同様である。一方で生産量はほとんどの工業製品において、沿海部よりもまだ少なく、増加の余地を有している。
これらを踏まえると、近年の内陸部での高成長は工業化によるところが大きく、内陸部の投資主導成長は比較的に健全であると判断される。

■展望と課題
今後を展望すると、内陸部では投資主導成長が当面維持されると見込まれる。①インフラ整備が進展していること、②資本装備率を高める余地が大きいこと、③沿海部に比べて人件費が割安であること、④内陸部の市場としての魅力が高まっていることが、民間製造業の内陸部への投資拡大要因になると考えられる。
一方、内陸部は輸出拠点というよりも国内市場向けの生産拠点という性格が強いことから、過度な投資主導成長にならないよう留意する必要がある。中国経済が高成長を続けているうちは問題が顕在化しにくいものの、耐久消費財の普及が一巡するなどの要因により、設備稼働率が低下し、資本ストック調整が始まると、成長エンジンの役割を果たしてきた設備投資は、むしろ景気を中長期にわたって抑制する要因となりかねない。持続的な成長には、投資と消費の拡大ペースのバランスをとっていく必要があるだけに、今後の政策当局の舵取りが注目される。
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