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アジア・マンスリー 2013年1月号

【トピックス】
中国共産党大会で示された課題と対応策

2013年01月04日 佐野淳也


中国共産党大会で公平な所得分配等を通じた格差の是正や経済発展方式の転換加速が、経済面における主要課題に設定された。改革推進を提起する一方、痛みを受ける層に配慮した内容も盛り込まれている。

■第18回党大会報告が持つ2つの意味
中国共産党第18回全国代表大会(党大会)の冒頭、胡錦濤前総書記は前期(第17期)の中央委員会を代表して、報告(「政治報告」という呼称が一般的)を行った。今回の「政治報告」は、胡錦濤氏にとって10年間の政権を締めくくる演説といえる。同時に、①総書記(党のトップ)の座を引き継いだ習近平国家副主席が起草作業グループの責任者であったこと、②党大会最終日に指摘事項を高く評価し、今後の取り組みの方向性を示したとする決議が採択されたことから、「政治報告」は習近平政権にとっても内政外交を進める際の当面の指針と位置付けられよう。

■格差是正や経済発展方式の転換加速を主要課題に設定
「政治報告」の内容を詳細にみると、注目すべき特徴は、以下の3点に絞られる。第1に、格差是正を最重要課題に設定したことである。
「政治報告」の第1章は、胡錦濤政権の取り組みがいかに適切であったかをアピールする内容となる一方で、経済、社会、政治において「なお少なからぬ困難と問題」が残存していることを指摘している。そして、①経済発展におけるアンバランス、②食品の安全等、庶民生活を脅かす要因の増大、③モラルの低下、④党組織の弱体化、⑤幹部の汚職や職権乱用と並び、「都市-農村間の発展格差や所得分配の格差が依然大きいこと」を主要課題として掲げた。
2002年の発足以降一貫して、胡錦濤政権は格差是正を掲げ、農業税の廃止や内陸振興策の推進などに取り組んできた。1人当たり可処分所得でみれば、都市-農村間の格差は2009年の3.3倍をピークに、縮小に向かっている。
とはいえ、農村住民の一部で収入が急増した半面、一部の都市住民が窮乏化した結果、平均値で格差縮小につながった可能性が高い。都市内及び農村内での所得格差の拡大傾向(ジニ係数の上昇)は、こうした見方の証左となろう。統計では把握できない収入を含む格差や業種間の賃金格差、企業の経営幹部層と従業員の間の給与格差等の問題も指摘されている。これらの点を踏まえ、胡錦濤政権は解決できなかったことを事実上認め、習近平政権にも格差是正を最重要課題として引き続き取り組むよう求めたといえる。
具体的な取り組みとしては、2020年の都市・農村住民の1人当たり所得を2010年比倍増させるとの数値目標が設定された(第3章)。個人所得に関する数値目標が初めて掲げられたことから、国民の生活水準引き上げに対する強い決意が感じられる。「あらゆる手段を尽くして個人所得を増やす」というスローガン(第7章)を掲げるとともに、労働報酬の引き上げや社会保障制度の対象拡大、農業の近代化など、所得の増大及び格差是正につながる諸施策の継続を提起している。
第2に、発展方式の転換を経済面における主要課題と位置付け、転換加速の方針が示されたことである。転換の具体的な方向として、内需(とくに消費)主導型の成長、近代的なサービス業及び戦略的新興産業(省エネ・環境保護、ハイエンド装置製造など、7業種)をけん引役とする発展などを提唱した。消費主導の成長や新しい成長産業の振興は現在進められている「第12次5カ年計画」等でも言及されているが、共産党の基本方針が示される「政治報告」の中で再確認された意義は大きい。現行の成長方式や産業構造のままでは成長の持続は困難であり、先進国に追い付けないのではないかという指導部内の危機感の表れといえよう。
第3に、経済構造改革によって痛みを受ける層への配慮が際立っていることである。経済発展方式の転換では従来、過度な投資を抑制する措置(生産過剰業種や汚染物質排出量の多い業種が主な対象)が講じられていた。ところが、今回の「政治報告」では、「投資の合理的な成長を維持する」(第4章)と述べただけで、抑制を直接示唆する文言は見当たらない。投資主導による量的拡大志向の強い地方政府の反発を和らげるため、投資抑制を明確に打ち出さなかったと考えられる。また、民間企業をはじめとする非公有制企業の発展を奨励し、公平な企業競争を目指す一方、「国家の安全や国民経済の命脈に関わる重要業種」における国有企業の重要性も強調している。

■経済関係閣僚人事が今後の焦点に
第18回党大会及びその終了翌日に開催された中央委員会第1回全体会議の結果、指導部の顔ぶれは大幅に入れ替わった。共産党の指導者が国家の要職を兼務する現状を勘案した場合、国家主席をはじめとする主要ポストは、2013年春開催予定の全国人民代表大会(国会)で交代することになろう。経済閣僚に限定しても、党の主要ポストへの転出や年齢制限等による引退が相次ぎ、大規模な人事が見込まれている(右下表)。痛みを受ける層に配慮しつつも、格差是正や経済発展方式の転換加速に積極的な人材を主要経済閣僚に登用できるか否か、中国経済の長期的な成長持続の可能性を判断する際に注目すべきポイントと思われる。
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