コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

アジア・マンスリー 2012年10月号

【トピックス】
中部地域開発を加速させる中国

2012年10月02日 佐野淳也


中国の中央政府は産業移転などを通じて、中部地域開発を加速させる方針である。地域振興目標の達成に向けて、地元政府による無秩序な投資拡大の防止が最重要課題と位置付けられよう。

■中部地域の新しい発展戦略方針を公表
7月25日、国務院常務会議(主要閣僚による会議)において、「中部地域の崛起促進戦略を実施することに関する若干の意見」(以下、「意見」)が採択された。中部は、山西、安徽、江西、河南、湖北、湖南の6つの省から構成され、2000年代半ば以降「中部崛起」と呼ばれる地域振興策が実施されている。そして現在、「中部崛起」は「東北振興」(対象は遼寧、吉林、黒龍江の3省及び内モンゴル自治区の東部)や「西部大開発」(対象は重慶市など、12の省・自治区・直轄市)と並んで、複数の行政区域を包含するとともに、国務院(中央政府)が方針の策定等に深く関与する最も重要な内陸地域発展戦略の1つと位置付けられている。上述の国務院常務会議は、中部地域開発の重要性を再確認したものといえよう。

それから約1カ月後、「意見」の全文が公表された(国発〔2012〕43号)。全体を通して、今までの方針や取り組みによる成果(経済・産業面での発展)を強調する一方、経済発展戦略や産業政策の推進過程で顕在化した課題も踏まえ、主要施策を調整したい中央政府の判断が看取される。

■食糧・エネルギー供給機能の強化や産業移転の促進に注力
記載内容を詳細にみると、「意見」の主要な特徴は、以下の2点に集約できる。第1に、中部地域の地位向上を明確に打ち出していることである。

例えば、経済規模の面では、「中部崛起」策の進展によって、全国に占める中部の割合は高まった(GDPでみた中部のシェアは2005年の18.8%から2011年には20.1%と、1.3%ポイント上昇)と述べつつも、年平均成長率で全国平均を上回る状況を2020年まで継続させ、中部のシェアをさらに高める方針を提起した(右下図)。「意見」には、東部(沿海部)との格差縮小を客観的に示す必要があるとも明記されている。中部地域の経済成長加速を通じて、地域間格差の問題を解消しようとする中央の決意がうかがえる。

「意見」では、「3つの基地、1つの中枢」というスローガンを掲げ、特定分野における中部地域の地位向上を図る方針も示された。3つの基地とは、①食糧生産、②エネルギー・原材料供給、③近代的な装置製造業・ハイテク産業を指し、1つの中枢とは、交通を指している。

河南省が31の省・自治区・直轄市の中で食糧生産量第2位に入るなど、中部地域は中国最大の食糧生産拠点としての役割を担っている(右上図)。エネルギー資源の面では、山西省が数多くの炭鉱を抱え、第1のコークス生産量を誇っている。また、中部は東部と西部、さらには沿海部の主要都市を結ぶ幹線道路や鉄道の要衝でもある。地理的条件あるいは資源分布での優位性を一段と伸ばし、中部地域の振興に弾みをつけようとの意図が全面に押し出されているといえよう。

第2に、産業育成策において、いくつかの施策を講じ、幅広い業種で競争力を高めようとしていることである。

施策に関しては、炭鉱の再編推進、研究開発面での産官連携強化、中央財政資金からの投入増及び中部への傾斜配分なども示されたが、最も注目すべき取り組みは産業移転の促進であろう。「労働力や資源等の優位性を発揮し、国内外の産業移転受け入れを秩序立てて推進」することが「意見」に盛り込まれた。さらに、条件の整った都市において、沿海部からの加工貿易傾斜重点受け入れ地の建設を進める方針も示されている。ただし、産業競争力の強化に加え、エネルギー消費・汚染物質排出の削減推進の観点から、立ち遅れた生産設備や排出量の多い産業の転入を厳しく抑制することが明記された。

育成対象として、近代的な装置製造業・ハイテク産業の場合、自動車、バイオ、変電設備、電子情報等々、具体的な業種が数多くあげられた。鄭州でバイオなど、主要都市で特定のハイテク産業を重点的に育成するといった取り組みも明記されている。こうした絞込みの一方、①産業移転の受け入れの際、家電やアパレルといった労働集約型産業に重点を置くこと、②アウトソーシング、高齢者向けサービス、レジャーを含むサービス産業の発展にも言及しており、中部地域での雇用拡大や都市化の推進を考慮した産業政策を「意見」で提起したと解釈できる。

■無秩序な投資拡大の防止が最重要課題
中部地域の発展を加速させ、「意見」で設定された目標を達成するためには、地元政府(省や市)による無秩序な投資拡大を防止することが最も重要と考えられる。地方政府が競い合うようにインフラ整備や産業振興のための投資プロジェクトを拡大した場合、成長率の一時的な押し上げにはつながる半面、稼働率の低い余剰設備が財政あるいは企業の負担を急増させかねない。景気過熱、汚染物質排出量の拡大といった弊害も懸念される。

他方、7月以降、中央政府が景気浮揚のための適度な投資拡大を容認する方針を示したことが契機となり、中部をはじめ、多くの地域で大規模な投資計画が公表されている。しかし、独自財源に中央からの財政移転分を考慮しても、計画を執行するための資金を確保することは困難と思われる。プロジェクトの安易な上積みではなく、採算性等を事前に検討したうえでの着実な執行が地元政府にはとくに求められよう。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ