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アジア・マンスリー 2012年10月号

【トピックス】
国際金融情勢がアジアにもたらす影響

2012年10月02日 清水聡


欧州債務危機の影響がアジアにも及んでおり、危機対策の強化が求められる。アジアでは域内経済・金融統合に向けた動きが活発化しているが、域内金融統合の推進は危機対策としても重要である。

■世界経済・金融情勢のアジアへの影響
リーマン・ショック以降、アジア経済は急速に回復したが、欧州債務危機の深刻化やそれによる先進国の景気悪化の影響が次第に出始めている。多くのアジア諸国において、2011年の輸出の伸びは前年対比鈍化し、2012年入り後は前年比減少となる月も増えている。このことも一因となり、多くの国で2010年前半をピークに四半期の実質GDP成長率が低下傾向となっている。

 金融面では、世界金融危機からの回復過程においてアジアへの資本流入が急増したことに伴い、先進国の金融資本市場との結びつきが強まり、金融危機の影響が波及しやすくなったと考えられる。足元においても、先進国の金融緩和に伴う投資資金の増加やアジアとの金利差の拡大などがアジアへの資本流入を促している一方で、欧州情勢の変化などに影響を受けて先進国投資家のリスクに対する姿勢が目まぐるしく変わっている。これらの要因がさまざまに作用することによって、アジアに向かう資本フローのボラティリティが上昇しているといえよう。

景気回復とともに上昇した株価は、中国では2009年8月に急落し、その後も大きな振れを伴いつつ低下傾向が続いている(上図)。香港・韓国・シンガポールでも、2011年半ば以降下落し、その後は上昇・低下を繰り返す展開となっている。これに対し、ASEAN諸国では、実質GDP成長率の相対的な底堅さなどを反映し、株価は上昇基調を維持している。タイ・インドネシア・フィリピンでは、2012年7月の株価が2009年1月の2.5~3倍程度となっている。

国際収支の推移(下表)をみると、グロスの資本流入額(表中の「流入」)は、2009年、2010年と急増したが、2011年は前年比▲8.6%となった。その主因は、証券投資が大幅に減少したことである。証券投資の減少は、表の6カ国・地域において例外なくみられた。特にインドネシアでは、2011年半ば以降、国債市場の海外投資家比率が急低下しており、債券市場から資金が流出したことがわかる。
こうしたなか、2009年以降、総じて増価していたアジア通貨の対ドルレートは、2011年半ば以降、多くの国で減価に転じた(次頁表)。これを受けて、外貨準備の積み上げにも歯止めがかかっている。特に、タイやインドネシアでは顕著に減少しており、為替介入により自国通貨を支えているものと考えられる。

このように、深刻な状況となってはいないものの、欧州債務危機の影響はアジアの経済や金融資本市場に及んでいる。欧州の問題は長期化が予想され、今後、資本流出が拡大するようなことがあれば、アジアの状況も悪化する恐れがある。これに備え、危機対策の強化が求められよう。
■アジアに求められる対応
こうしたなか、銀行融資において域内クロスボーダー取引が拡大している。ASEAN+3諸国および香港に対するBIS報告銀行の融資残高の動向をみると、2011年6月から2012年3月にかけて欧州の比率が46.1%から42.6%に低下する一方、その他が26.8%から30.5%に上昇した(下図)。欧州の銀行による融資が縮小する中、これを主に域内の銀行(報告銀行に中国・韓国・マレーシアなどは含まれないため、ここでは香港・シンガポール・台湾などの銀行)が代替していると考えられる。また、ここに含まれないマレーシアの銀行も、近年、上位行を中心に近隣諸国への進出を活発化させており、自国企業の海外投資の支援などのために域内クロスボーダー融資を拡大している。
アジアでは、域内経済・金融統合を推進する動きが活発化しているが、この銀行融資の事例は、域内金融統合の進展(域内取引の拡大)が資本フローの安定化につながり、域外からもたらされる金融危機に対処するために有効であることを示すものと考えられる。

このように、域内金融統合には、金融危機などの対外ショックに耐える能力を向上させるとともに、域内の内需拡大を促進し経済成長を支援する効果がある。これを推進するには、資本取引を自由化することが前提となる。近年の資本流入の急増に対し、多くのアジア諸国は流入規制の強化によって対処してきた。しかし、長期的には、急激な資本流入・流出に対処する能力を向上させた上で、資本取引自由化を実施する方向に向かうことが望ましい。
そのためには、健全なマクロ経済政策運営と国内金融システム整備が求められる。マクロ経済政策には、金融政策の自由度を維持するための柔軟な為替政策、資本流入・流出に適切に対応する財政金融政策が含まれる。後者のためには、財政の健全性を維持することが不可欠である。

もう一つの前提条件である国内金融システム整備に関しては、金融資本市場の育成に努めるとともに、市場や市場参加者に対する規制監督を強化することが有効である。金融資本市場の育成に当たっては、資本フローの増加に伴って外国為替取引額が急増することから、為替制度の柔軟化(為替介入の削減)や為替デリバティブ市場の整備などにより為替市場を強化することも重要と考えられる。また、後発国の経済発展や金融システム整備を推進し、発展段階格差の縮小に努めることが不可欠である。規制監督の強化に関しては、国際金融規制改革の流れに対応することや、危機発生時の対処の枠組みを整備することも重要である。

一方、ネットの資本流入を減らすためには、流入規制の強化ではなく、流出規制の緩和で対応することも考えられる。こうした対応は近年、中国・韓国・マレーシア・タイなどでみられたものであり、対外投資に伴うリスク管理能力を高めつつ、企業や機関投資家の活動の国際化を促すことが求められる。
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