コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

アジア・マンスリー 2012年9月号

【トピックス】
拡大する中国内陸部の自動車市場と小型車需要

2012年09月07日 関辰一


中国内陸部の自動車市場は全国の5割の水準まで急拡大した。今後さらなる市場拡大により、2014年の自動車保有台数は8,000万台に達する可能性もある。こうしたなか、エントリーカー需要が高まっている。

■急拡大する内陸部市場
中国では自動車市場が着実に拡大しており、2011年の販売台数は1,851万台、2012年1~7月は1,098万台と世界最大の市場規模となっている。

とりわけ、内陸部での需要拡大が急ピッチである。北京や上海を含む東部11省・市を沿海部、中部8省・市・自治区と西部12省・市・自治区を内陸部と定義すると、内陸部の自動車登録台数は2010年には沿海部とほぼ同水準の742万台にまで増加した。新車登録台数の内陸部のシェアは2005年の36.9%から2010年には48.6%に上昇した。

内陸部で市場が特に大きいのは中部の河南省と西部の四川省である。それぞれの2010年の地域別新車登録台数は89万台、81万台と北京の87万台と並ぶ規模である。

他の内陸地域についてみると、安徽省、山西省、湖南省、湖北省、黒龍江省、雲南省、陜西省、内モンゴル自治区の市場規模も上海市を上回る。なお、2010年の新車登録台数トップ3は、沿海部の山東省、広東省、浙江省の3地域であった。

内陸部市場の急拡大の主因は、所得増加である。2000年代半ば以降、内陸部の1人あたりGRPは、沿海部を上回る高い伸びが続いている。この結果、沿海部の1人あたりGRPは2005年の2,860ドルから2010年に 6,723ドルへと2.4倍となるなか、内陸部では1,267ドルから3,515ドルへ2.8倍となった。

また、外資ブランド・中国ブランドともに、内陸部消費者に近い場所で生産・販売拠点を新規設立している点も、内陸部市場の急拡大に寄与している。

さらに、政府の減税政策や補助金制度が内陸部の消費者の自動車購入を後押ししている。政府は、リーマンショック後から2010年末にかけて、小型車減税や農村部の自動車購入に対する補助金制度を導入した。2012年入り後、景気てこ入れを目的に、①省エネ車の保有税減税、②1,600cc以下の小型車への補助金制度、③対象モデルの購入者に3,000元を支給する省エネ車補助金制度を導入している。

■一段と拡大する見通し
今後を展望すると、以下の2点から、内陸部での自動車需要は一層拡大する見通しである。第1は、自動車普及率がまだ低い点である。2010年の内陸部の自動車普及率は20人に1台にとどまっている。

第2は、人口が多い点である。内陸部は沿海部より多くの人口を抱えているため、近い将来においてその市場規模は沿海部を上回るものになるだろう。全国13億3,972万人の人口のうち、7億8,346万人が内陸部に常住している(2010年末時点)。

ちなみに、直近の所得水準の伸びが当面持続するとの前提で試算すると、内陸部の1人あたりGRPは2014年に8,000ドルに達し、自動車保有率も10人に1台にまで上昇する可能性が高い。この場合、内陸部の自動車保有台数は2010年の3,412万台から2014年には8,000万台と、日本全国を上回る規模になる。

今後、内陸部市場の拡大をけん引役に、中国の自動車販売台数は増加トレンドを続けると見込まれる。

■高まるエントリーカー需要
内陸部市場の拡大により、低価格の小型車に対する需要が高まっている。内陸部では自動車を新規に購入する者が多いため、低価格のエントリーモデルに対する需要が大きい。これは、高級車のニーズが大きい北京や上海とは異なる特徴である。

完成車メーカー各社は内陸部での販売網を急ピッチで整備すると同時に、低価格の小型車を積極的に市場投入している。とりわけ、中国メーカーの小型車率が高い。全メーカーの排気量1,600cc以下の小型車販売台数は、乗用車全体の61.1%であったが、代表的な民間中国メーカーである奇瑞の小型車率は同94.7%、BYDは同93.9%、吉利は同75.4%にのぼる(2008年)。この結果、中国メーカーのマーケットシェアが高まっている。乗用車販売台数に占める中国独自ブランドのシェアは2008年の25.9%から2011年には29.1%へ上昇した。

今後、内陸部市場の拡大に伴い、低価格の小型車に対する需要が一段と拡大すると見込まれる。利益率の低い小型車市場に注力してマーケットシェアを伸ばすのか、あるいは、利益率が高いエコカーや高級車を主力にするのか、メーカー各社の動向が注目される。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ