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アジア・マンスリー 2012年8月号

【トピックス】
中国の「西高東低」をどう評価するか

2012年08月01日 三浦有史


中国中西部の省・市・自治区の成長率は高く、外資企業の関心も高い。しかし、成長を支えているのはインフラ整備と資源開発である。外資や私営などの民間投資が今後の成長の持続性を左右する。

■定着した成長率の「西高東低」
2012年2月、世界銀行が国務院経済発展センターと共同で取りまとめた『China 2030』と題するリポートでは、中国が年平均6.6%の成長を実現すれば、2030年までに米中の経済規模は逆転するとしている。しかし、「中国」と一言でいっても、沿海と内陸では発展段階に大きな違いがある。最も豊かな上海市の1人当たりGDPは2010年時点で7万8,989元(1万2,222ドル)に達するが、最も貧しい貴州省は1万309元(1,595ドル)に過ぎない。前者はハンガリー(1万2,863ドル)、後者はガーナ(1,325ドル)に近い。ハンガリーはOECD(経済協力開発機構)加盟国であり、中国はまさしく先進国と開発途上国が同居している状況にある。

しかし、近年は経済成長率における「西高東低」が顕著である。2006~2011年の世界182カ国と中国31省・市・自治区の年平均実質GDP成長率を高い順に並べ、上位35位の国・地域を抜きだすと、中国31の省・市・自治区の全てがランクインする(右上図)。しかも、北京市や上海市などの沿海中核都市より、中西部の省・市・自治区の成長率が高い。年平均の実質GDP成長率が7.2%であれば経済規模は10年で2倍、11.6%であれば3倍、14.9%であれば4倍に拡大する。経済規模と成長性という点で中西部は世界で最も魅力的なフロンティアといえる。

■高まる中部と南西の重要性
中国を平均値としてではなく、発展段階に応じた地域分けを通じて捉える必要性はかつてなく高まっている。在中華南米国商工会議所は、2012年の白書において、今後3年間の有望投資先として長江デルタと広東省を挙げる企業が大幅に低下し、東北三省や四川省との差が縮小したことを明らかにした。わが国進出企業の間でも中西部への関心が高まっている。2012年6月に中国日本商工会が発表した『中国経済と日本企業 2012年白書』では、繊維・アパレルや事務機器の分野で湖北や湖南省など中部の存在感が高まっているとされている。

次図では、中国の31省・市・自治区を①南東(江蘇、上海、浙江、福建、広東)、②環渤海(北京、天津、山東、河北)、③中部(山西、河南、安徽、湖北、湖南、江西)、④北西(内蒙古、寧夏、甘粛、陝西、青梅、チベット、新疆)⑤南西(四川、重慶、貴州、雲南、広西)、⑥北東(黒龍江、吉林、遼寧)に分類し、各地域が東アジア、あるいは、ロシア、ブラジルといった新興国のなかで、どのように位置づけられるかを、横軸に発展水準を示す1人当たりGDPを、縦軸に人口規模をとってプロットした。

縦軸と横軸が垂直に交わる線の内側の面積はそれぞれの経済規模を示す。南東のGDPは2.0兆ドルとブラジル(2.1兆ドル)に匹敵し、ロシア(1.5兆ドル)を大きく上回る。以下、中部(1.2兆ドル)、環渤海(1.1兆ドル)、南西(0.7兆ドル)、北東(0.5兆ドル)、北西(0.5兆)ドルと続き、中部と環渤海の経済規模は韓国(1.0兆ドル)を上回る。南西はインドネシア(0.7兆ドル)、北西と東北はタイ(0.3兆ドル)とマレーシア(0.2兆ドル)を合わせた規模に相当する。経済発展の水準が低い半面、人口が多い中部と南西を「工場」あるいは「市場」としてどのように位置づけるかが対中投資戦略において重要な意味を持つ。

■求められるソフト面の改革
中西部の高成長は何によってもたらされているのであろうか。GDPに占める供給項目の変化をみると、南西、中部、北西において、2000年頃から第一次産業の割合が低下する一方、第二次産業の割合が上昇するという産業構造の変化が見られる。経済センサスでは、第二次産業の2004~2008年の販売額伸び率に対する鉱業、製造業、電気・ガス・水道業の寄与度が算出できる。

南東および環渤海とその他地域の伸び率の違いを最もよく説明するのは、鉱業と電気・ガス・水道業であり、インフラ整備と資源開発が中西部の経済成長を支えていることがわかる。中部については例外的に製造業の寄与度が高いものの、これは必ずしも南東から繊維製品・履物・帽子製造業といった労働集約的産業の移転が進んだことを意味しない。中部の製造業を支えているのは、化学原料・同製品製造業、交通運輸設備製造業、非金属鉱物製品製造業といった資本集約型産業であり、投資主体はあくまで国有およびその関連企業である。このため、投資効率や雇用創出効果は南東や環渤海に比べ低い。中西部の経済成長が投資主導であることはGDPに占める総固定資本形成の割合をみても確認できる。南東と環渤海は5割前後で安定的に推移しているが、北西は2001年から、北東、南西、中部は2005年前後から急速に上昇し、2010年には6~7割に達した。

中西部の経済基盤は脆弱であり、資源価格の下落や財政金融を取り巻く環境変化によって成長率が低下する可能性がある。政府は、現在5つの中核都市を8~10程度に増やし、その多くを南東および環渤海以外に置くことで、中西部経済の底上げを図ろうとしているものの、インフラ整備などハード中心の地域振興戦略が中西部に投資主導の経済成長をもたらす一因となったように、行政区画の変更によって中西部の経済基盤が強化されるとは限らない。行政手続きの簡素化などソフト面の改革を進めることで投資環境の改善を図り、外資や私営などの民間企業が投資を牽引する経済に移行できるか否かが、経済成長の持続性を左右するポイントとなろう。
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