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アジア・マンスリー 2012年7月号

【トピックス】
経済面を中心に続く中国の対米協調路線

2012年07月04日 佐野淳也


中国は米国との戦略・経済対話を積み重ね、経済面での政策協調やグローバルな課題に対する連携強化を内外に表明している。こうした対米協調路線は、次期政権下でも継続される可能性が高い。

■第4回米中戦略・経済対話に向けた中国側の対応
5月3~4日の2日間、第4回米中戦略・経済対話が北京で開催された。

中国政府は、対話の円滑な実施に向けて事前策を講じた。対話前日(5月2日)の人民元対米ドルレートの基準値(毎朝発表)は、2005年7月の為替制度改革以降では最も高い値に設定された。4月中旬に実施された人民元対米ドルレートの変動幅拡大と併せ、米国側からの為替制度改革の加速要求を和らげる意図を含んだ措置とみられる。

さらに、開催直前に生じた中国の人権活動家陳光誠氏の米国大使館駆け込み事件に関しても、中国政府は米国側に謝罪や再発防止策を強く求めたものの、これを理由に、戦略・経済対話を先送りすることはなかった。

中国側のこのような対応の背景には、指導部の交代を控えて対米関係を悪化させたくないとの政治的判断があったと推測される。米ドル建て資産の毀損リスク回避も大きな要因といえよう。

中国の報道によると、日本国債を約2,312億ドル(2011年末時点)保有するなど、中国は対外資産を分散化させはじめている。しかし、約1兆1,700億ドルに及ぶ米国債(2012年3月末時点)をはじめ、対外資産の大半は依然米ドル建てと推測される。それ故、米国との戦略・経済対話を予定通り実施し、米中協調を内外に強くアピールすることは、資産価値保全の観点からも必要不可欠であったと思われる。

■中国の内需拡大などを改めて強調
第4回米中戦略・経済対話の議題は、IMFの機能強化や世界各地の安全保障問題、環境面での協力強化など、多岐にわたった。持続可能かつ均衡のとれた成長促進に限定しても、幅広く討議され、いくつかの合意を得ている。こうした持続的成長に関連した合意事項の中でとりわけ注目されるのは、以下の3点である。

第1に、マクロ経済政策における政策協調である。米国は投資と輸出を増やすと同時に、財政赤字の削減や総貯蓄率の引き上げに注力する一方、中国は内需、とくに消費の拡大に取り組む。ここまでであれば、2009年の第1回米中戦略・経済対話以降の米中の経済政策協調の再確認と解釈できよう。ただし、「経済対話の成果に関する状況説明」をみると、中国側の約束には続きがあり、構造的な減税推進、売上高に対して課税する営業税から仕入額控除後に課税する増値税への転換を試行する地域の拡大を盛り込んだ。加えて、一部の消費財の輸入関税を「2012年末までに引き下げるよう努力する」ことも明記された。これらは、サービス業の発展や消費拡大につながると期待される具体的な措置であり、経済運営面で米国との協調を推進することが中国政府の目標と合致しはじめた内容といえる。

第2に、二国間経済関係の強化推進及び対立点の緩和である。二国間投資協定の交渉加速での合意は、前者の代表例と位置付けられる。後者の例として、中国当局による為替制度改革の継続を前提としながらも、米国側が人民元対米ドルレートの変動幅拡大に対し歓迎の意向を明確に示したことである。民生用ハイテク製品の対中輸出促進も、対立緩和に向けた双方の歩み寄りの成果といえる。軍事技術への転用防止と中国への輸出拡大を両立させたい米国と、産業高度化に向けてハイテク製品の輸入拡大を図りたい中国の思惑が一致し、対中ハイテク規制の緩和か否かではなく、民生用ハイテク製品の対中輸出促進への努力を前面に押し出す文言が経済対話の成果文書に盛り込まれたと解釈できよう。

第3に、グローバルな課題での連携・協力である。経済自由化推進の一環として、米国が主導的な役割を果たす環太平洋経済連携協定(TPP)への中国の反応に注目が集まったものの、この分野については、中国-ASEAN自由貿易協定なども含めた情報交換の強化での合意にとどまった。むしろ、シェールガスの開発や環境保護における米中協力を推進するとともに、米中の「責任ある生産の奨励」が戦略対話の成果リストに盛り込まれたことを注視すべきであろう。シェールガスは米中国内に豊富に存在すると推測され、今後有望なエネルギー源として期待される半面、環境面への影響が指摘されている。世界のエネルギー消費で第1位の中国と第2位の米国が環境面に配慮しつつ、シェールガスの生産加速で合意したことは、世界的なエネルギーの長期的な安定供給につながる可能性を秘めた大きな進展といえよう。

■協調路線は今後も継続の見込み
胡錦濤政権はオバマ政権との間で、年1回のペースで主要閣僚級の米中戦略・経済対話を積み重ねてきた。米中戦略・経済対話について、中国国内では米国との連携拡大に貢献したとの見方が主流である。米国からの要求に適切に対応(場合によっては反論)し、対立を和らげる安定装置としても評価されている。
また、2012年は米国大統領選挙の年、中国の指導部も交代する年であることを明示したうえで、今回の対話で得られたコンセンサスや調印した取り決めは、次期指導者にも引き継がれるとの公式報道もあった。これらの主張が全面否定されなければ、ポスト胡錦濤政権でも、中国は米国との対話を重ね、経済面を中心とする対米協調路線を維持していくものと判断される。
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