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アジア・マンスリー 2012年7月号

【トピックス】
進展する域内金融協力

2012年07月04日 清水聡


アジア域内金融協力は、着実に進展している。欧州債務危機の深刻化により国際金融情勢が不安定化する中で、域内金融協力の重要性が高まっている。

■進展するアジア域内金融協力
97年の通貨危機以降本格化したアジア域内金融協力は、近年も着実に進展している。5月には、今回より中央銀行総裁をメンバーに加えてASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議が開かれ、共同声明において多くの新たな政策が打ち出された。その内容は、過去1年間に多様な議論が重ねられてきた成果といえるものである。

第1に、緊急時の流動性供給体制であるCMIM(Chiang Mai Initiative Multilateralisation)に関し、以下の通り、枠組みが強化された。①全体の規模を、1,200億ドルから2,400億ドルに倍増する(下表)。②IMFプログラムにリンクしない(プログラムなしでも融資を実行できる)部分の割合を20%から30%に拡大する。さらに、条件が整えば、2014年に40%に拡大する。③融資期間および最大延長可能期間を長期化する。④CMIM Precautionary Line(CMIM-PL)と呼ばれる危機予防のファシリティを導入する。

CMIMを実効性のある枠組みとするため、AMRO(ASEAN+3 Macroeconomic Research Office)がシンガポールに設立され、サーベイランス活動が開始されている。具体的な活動として、地域および各国の経済に関する報告書の定期的提出に加え、各国へのコンサルテーションが順次、実施されている。上記の共同声明では、AMROに対し、①ADB・IMF・世界銀行などとの協力関係の強化、②AMROを国際機関とするための準備の加速、③ホスト国であるシンガポールの責任の明示、の指示が出された。シンガポールはすでに必要な支援の実施を確約している。

第2に、アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)に関し、従来のロードマップの見直しによりNew Roadmap+が採用され、以下の9つの優先項目が示された。(1)具体的な成果を生み出すために取り組みを強化すべき既存の重要課題(Follow-up issue):①CGIF(Credit Guarantee and Investment Facility)の業務開始、②インフラ金融の枠組み整備、③機関投資家のための投資環境整備と情報提供、④ABMF(ASEAN+3 Bond Markets Forum)の活動強化、⑤域内決済機関(RSI)の設立に向けた取り組み。(2)ABMIの議論に弾みをつけるために付け加えるべき重要課題(Added issue):⑥国債市場の一層の整備、⑦消費者や中小企業の金融アクセスの強化、⑧域内の格付けシステムの基礎強化。(3) 国際金融情勢の変化に鑑み取り組むべき関連課題(Relevant issue):⑨金融知識の向上。

これらの項目は、従来以上に具体的(tangible)な成果が必要であるという認識の下、慎重な議論の結果、選択されたものであり、重要なテーマが網羅されている。今後は、これらを着実に実現していくことが求められ、共同声明でも各タスク・フォースにおいて作業計画(work plan)を作成し、進捗を確実なものとすることを求めている。

2010年11月に設立されたCGIFの役割は、域内の投資適格企業(現地の格付け機関の格付けにより判断)の現地通貨建て債券発行を保証により支援することにある。業務開始後、当初の段階において保証を実施する対象国としてはASEAN5カ国(インドネシア・マレーシア・フィリピン・シンガポール・タイ)を想定しており、保証対象としては①発行期間が10年以上の債券、②クロスボーダー発行となる債券、③投資適格ではあるが単独では債券発行が困難な比較的格付けが低い企業が発行する債券、などが検討されている。9月頃までに、第1号案件が実施される見込みである。

域内での社債発行に対して保証を実施する場合、本来は格付けに関して域内共通の物差しとなるリージョナル・スケールの存在が必要である。しかし、現時点で各国の格付け手法は多様であり、相互に比較することはほとんど不可能である。この点をどうすべきかについては、今後、ASEAN+3リサーチ・グループなどの場で議論が深められるものと期待される。

また、ABMFは2010年に設立された官民連携のフォーラムであり、今般、ASEAN+3債券市場ガイドを作成した(Asian Bonds Onlineなどで入手可能)。今後、域内各国におけるプロ向け債券市場の設立などに向け、活動を継続することとなろう。

■重要性を増す域内金融システム整備
世界金融危機および欧州債務危機を経て、アジア経済がプレゼンスを増すとともに、国際金融情勢が不安定化する中で、域内の金融システムを強化する必要性が高まっている。域内金融協力の目的は、第1に、域内に効率的で安定性の高い金融システムを作り上げることである。銀行と債券市場のバランスの取れた金融システムを構築し、資金調達・運用手段の多様化やリスク分散を実現すること、海外からの資本フローが不安定化する中で債券市場がバッファーとして機能するよう、投資家の多様化や流通市場の整備を図ること、などが求められる。

第2に、内需主導の経済成長を支援することである。今般掲げられたABMIの優先項目の中でも、インフラ金融の枠組み整備、消費者や中小企業の金融アクセスの強化などは、これを目指したものである。内需の拡大は、グローバル・インバランスの是正、域内諸国の成長の安定化、域内実体経済統合の促進などに資することになる。

第3に、域内金融統合を促進することである。ASEAN地域は2015年までにASEAN経済共同体(AEC)を構築することを目指しており、多くの人々が統合の重要性を理解するようになっている。金融統合の面でも、域内の株式市場の統合を主眼とする資本市場統合実施計画が進められるとともに、資本取引の漸進的な自由化が目指されている。域内金融統合を推進するためには、特に、後発国の市場整備を支援し、発展段階の格差を縮小することが重要である。また、域内金融統合の意義や進め方について、十分に議論することが不可欠である。
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