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アジア・マンスリー 2012年6月号

【トピックス】
中国不動産市場の現状と課題

2012年06月08日 関辰一


中国の不動産市場は急拡大し、中国経済の高成長を牽引してきた。近年ではとりわけ、中小都市の実
需が強い。一方、大都市の住宅価格は年収倍率の10倍を超えているため、価格抑制策が求められる。

■強い中小都市の実需
近年、中国では不動産開発投資が急拡大している。地方政府は原価がゼロに近い土地を政府関連の不動産業者に安価で販売し、不動産業者は住宅を中心に開発・建設し、大きな利益を得るようになった。同時に、不動産開発投資は中国の高成長の支柱の一つにもなった。不動産開発投資の拡大ペースは、住宅の私有化が実施された1998年以降、経済成長のペースを常に上回っている。名目GDPは2005年から2010年まで2倍に拡大する一方、不動産開発投資は5年間で3倍に拡大した。2011年の投資規模は6兆1,740億元と、名目GDPの13.1%を占める。
中国不動産市場の主役は住宅である。日本における不動産投資の中心は土地(更地)であるが、これは土地所有権が私有化されて、売買できる市場が成立しているためである。しかし、中国では土地所有権は政府にあるため、土地そのものは不動産取引の中心になり得ない。オフィスや商業施設も不動産ではあるものの、規模では住宅に大きく劣る。2011年の商業ビル投資は7,370億元と全国の不動産開発投資の11.9%、オフィスビル投資は2,544億元と全体の4.1%にとどまる一方、住宅投資は4兆4,308億元と全体の71.8%にのぼる。
住宅市場についてみると、中小都市を中心に多くの地域で住宅実需が旺盛である。上海・天津・北京と住宅市場が小さく不安定な山西・寧夏・青海・チベットを除く全ての地域において、新築分譲住宅の販売面積は竣工面積を上回る。政府による供給規制政策も影響し、圧倒的多数の中小都市において、需要が供給を上回っている。
中小都市の強い実需は都市化と所得水準の上昇という2つのダイナミズムがもたらしている。まず、都市化は大きな住宅の新規需要を生み出す。農村部から都市部への人口流入を背景に、都市部の人口が大幅に増加した。2006年から2009年にかけて、大都市の北京・上海を除いた都市の人口増加数は4,229万人に達する。一方、所得水準の上昇は持続的な住み替え需要の源泉となる。ここ10年、中国内陸部においても所得水準は2桁の上昇を続けてきた。人々は、老朽化したマンションとそれに伴う厳しい屋内設備・居住環境から、徐々に新築のよりよいマンションに住み替えつつある。

■大都市の住宅価格年収倍率の低下が課題
不動産市場の課題は大都市・リゾート地の住宅価格の上昇を抑制することである。大都市の上海・北京とリゾート地の海南省では、投資目的の住宅購入が多い。このため、分譲住宅平均販売価格の世帯年収倍率が10倍超の水準に達している。これは居住用に住宅購入を考えている者が買えない水準である。こうした状況から判断すると、大都市では住宅バブルが発生しているといえるだろう。
この背景には預金金利がファンダメンタルズ対比低すぎることが指摘できる。仮に、2004年に100万元を預金すると、その預金に利息がつき2008年には112万元になっている。一方、北京で2004年に100万元のマンションを購入していれば、2008年に130万元で売れる。
こうした状況は日本のバブル崩壊前にもみられた。1988年6月に総理府が行った「土地に関する世論調査」の中で「土地は貯金や株式などに比べて有利な資産である」という質問に対して、64.1%の人が「そう思う」と答えていた。日本は1980年代後半に大量の資金が不動産市場に流れ込み、地価が大幅かつ急速に上昇したことを経験している。
中国政府は、大都市の住宅価格の上昇を抑制するために、金融引き締め政策を実施してきた。利上げは2010年10月、12月、2011年2月、4月、7月とこれまで5回、預金準備率の引き上げは、2010年11月に2回、12月から2011年6月にかけて毎月1回実施された。
金融政策以外にも、一連の不動産価格抑制策が実施された。たとえば2011年1月、中央政府は8項目からなる通称“新国8条”を打ち出し、地方政府ごとに不動産価格抑制目標を設定するよう求めた。北京市、上海市は2軒目住宅や転入して5年に満たない市民を対象に購入制限令を発表し、同様の措置は中小都市でもその後導入された。
政府の抑制策を背景に、住宅価格の急騰に歯止めがかかっている。しかし、大都市・リゾート地域の住宅価格は年収倍率から考えると依然高い。北京・上海・海南では、引き続き抑制策を実施することで不動産価格を安定させる必要があろう。その間、所得水準が持続的に上昇することで、住宅価格の年収倍率が徐々に低下していくことが理想である。住宅価格が世帯年収の6倍前後になってはじめて、市民の住宅問題に対する不満を和らげることができよう。
中国政府が大都市の不動産バブルをコントロールできるかどうかが、今後も注目される。
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