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進展する貿易・経常収支構造の変化と日本型・投資立国モデル

2012年05月22日

【要 約】

1.2011年のわが国貿易収支(通関ベース)は31年ぶりの赤字を記録。それが早晩経常収支赤字につながるとすれば、財政危機を顕在化させるトリガーとなるという面で重大な懸念材料。そこで本レポートでは、貿易収支赤字化の原因を分析した上でわが国対外収支の今後を展望。それを踏まえ、経常収支黒字確保のための方策を探る。

2.2008年以降の貿易黒字の減少は、輸出が大きく水準を落とす一方、輸入が高水準を維持しているため。輸出が水準を落としたのは、(1)電気機械分野の資本財、および、(2)乗用車(輸送機械分野の消費財)が主因。これら2分野は、近年韓国企業の追い上げが著しいと同時に、海外生産シフトが進んでいる分野。一方、輸入の増加は鉱物性燃料の増加が主因。

3.2008年以降に輸出水準が低下した背景には海外生産が輸出に対してマイナスに作用し始めたこと。輸出比率(輸出額/売上高)は、製造業全体で2008年以降頭打ち傾向にあり、「加工輸出立国」の牽引役を果たしてきた電気機械・輸送機械分野でその輸出成長力に限界が見え始めている。もっとも、一般機械分野については、輸出比率は上昇し輸入浸透度は低下傾向にあり、国内製造基盤はむしろ強化されてきている面も。その他、高度部品や高機能素材など、日本での生産に優位性のある分野は多く、輸出はなお高い水準を維持することが可能。

4.もっとも、わが国の海外生産は輸出代替効果が強く働く段階に入っており、貿易収支にマイナスに影響しはじめている。しかし、海外生産には所得収支やサービス収支を増やすことで、経常収支ベースの黒字を維持させる効果もある。実際、特許権使用料や直接投資収益の受取が2000年代後半以降、大幅に水準を上げている。とりわけ、輸送機械で海外利益の受取が大きく増加しており、「国内生産・輸出拡大モデル」から、米国のような「海外生産・収益還流モデル」へと事業モデルを転換する兆しが窺われる。

5.わが国企業の海外生産・収益還流ビジネス・モデルへの転換は緒についたばかりであり、移行には相応の時間が必要。その一方で、製造基盤は米国に比べて強固であり、貿易収支の大幅赤字化は避けられ得る。わが国としては、資本財や高度部品・素材分野では国内生産・輸出拡大モデルを強化する一方、耐久消費財分野では海外生産・収益還流モデルへのシフトを進めるという「二面作戦」により、経常黒字を残すことが重要。さらに、海外生産・収益還流モデルへのシフトはそれだけ国内でのエネルギー消費を抑え、化石燃料輸入を減らす面でも経常収支の黒字化の要因になる点を見逃せず。エネルギー効率引き上げ・エネルギー単価抑制に取り組めば、化石燃料輸入は一段と抑制でき、貿易収支の赤字幅を抑え経常黒字を残すことにつながる。

6.シミュレーションによれば、産業構造が現状のトレンドで変化(海外生産の輸出代替効果が上昇)し、原油価格が年率5%で上昇する場合、貿易収支は2010年代半ばにいったん黒字化するが、2017年以降は再び赤字化。経常収支も2023年以降赤字に。原油価格が10%で上昇すれば、今後貿易収支は黒字化することなく経常収支も2022年以降赤字に。しかし、産業構造転換により、海外生産の輸出代替効果に歯止めをかけ、省エネ化により油価上昇影響が減殺されれば、2020年代に入って貿易収支は赤字化しても経常収支の黒字は維持可能。

7.わが国の強みは製造プロセスにあり、依然として製造基盤も強固であることを勘案すれば、米国型の「金融主導の投資立国」と一線を画し、(1)耐久消費財部門では海外生産のシフトを促して海外生産・収益還流モデルによりサービス・所得収支を増やす、(2)資本財・高度部品・素材分野では国内生産・輸出モデルを維持して貿易収支の大幅赤字化を防ぐ、(3)エネルギー消費抑制・エネルギー効率引き上げ・エネルギー単価引き下げにより化石燃料輸入を減らして貿易収支の大幅赤字化を抑える、の3つを柱とする日本型の「製造業主導の投資立国」モデルへの転換の結果として、経常収支黒字を残すべき。政策課題としては、1)TPPを梃子としたアジア・太平洋自由貿易圏の創出、2)グローバル本社機能誘致策、3)化石燃料輸入抑制策、に注力する必要。

本件に関するお問い合わせ先

調査部 山田 久
TEL: 03-6833-0930

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