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アジア・マンスリー 2012年4月号

【トピックス】
中国は積極財政を加速させるのか

2012年04月02日 佐野淳也


財政措置による景気浮揚への期待が高まっているなか、中国の2012年予算は民生支出の拡大や減税を打ち出したが、歳出拡大に慎重な姿勢も看取される。

■財政措置の実施に対して高まる期待
欧州債務危機などに伴う世界的な需要低迷が続くなか、GDP世界第2位であり、依然9%近い成長率で推移する中国への期待は一段と高まっている。2月6日、IMFは中国経済見通しを発表し、ユーロ圏での危機が深刻化した場合、経済成長率は4%台まで低下する局面も起こり得ると指摘した。ただ同時に、中国には財政措置を実施する余地があることも強調された。レポート全体を通して、金融緩和よりも社会保障制度の拡充、中小企業支援、耐久消費財購入への補助等、包括的な財政刺激措置による対処を求めるトーンになっている。
一方、景気の減速を踏まえ、中国政府は2011年12月と2012年2月に預金準備率を0.5%ポイント引き下げるなど、金融政策の微調整を実施してきた。しかし、預金準備率の引き下げにとどまらず、基準金利の引き下げに踏み切っても経済情勢が好転しなければ、4兆元規模の景気刺激策のような大胆な措置を求める意見は中国国内でも高まろう。

■直近の財政状況と2012年予算のポイント
果たして、財政出動の余地が十分あるのか、景気浮揚に向けた財政出動が予算案で盛り込まれているのか、財政部が2月14日に公表した2011年の税収概況資料、3月5日に全国人民代表大会(国会)へ提出(同月14日承認)された2011年の予算執行状況及び2012年予算案に基づいて検証したい。
まず、国家(中央+地方)財政収入の86.5%(2011年)を占める税収をみると、2000年の1.3兆元程度から、11年には9.0兆元と、規模が7倍に拡大した。この間、個人所得税における課税最低限の引き上げや内資企業に係る企業所得税率の引き下げといった減税措置を実施するなか、税収伸び率が名目GDPの伸びを常に上回っている。
財政収支をみると、2012年予算では8,000億元の赤字を計上している。赤字額は過去2番目の大きさであるものの、対名目GDP比でみれば1.5%に過ぎない。単年の財政赤字を名目GDPの3%以内に抑えることが健全な財政運営の目安の一つとされるなか、中国はその条件を達成している。
近年公表されるようになった中央及び地方の政府債務残高は、2010年末時点で計17.5兆元となり、前年より約2.4兆元増加した。半面、対名目GDP比は43.5%と、2009年に比べて0.6%ポイント低下している。政府債務残高の対名目GDP比について、2011年と12年の中央政府債務残高は予算案で示された数値(11年は予算執行段階の残高、12年は国債発行残高限度額)、地方政府債務残高は2010年と同じペースで拡大という仮定を置いて試算したところ、2011年は42.3%、12年も43.9%と、10年とほぼ同水準にとどまる。一般的に、同比率が60%以内であれば健全と評価されるため、中国は合格ライン内といえよう。
以上の点から、景気対策として大規模な公共事業を追加し、その資金を国債発行で全額賄うとしても、その財政的余地はあると判断される。
他方、2012年予算において、一般会計歳出額は過去最大の12.4兆元を計上したものの、前年比の伸び率は14.1%増と、2004年以降では最も低い。また、積極的な財政政策の継続を予算の基本方針と位置付けているが、その中心は構造的な減税政策の推進(売上高に対して課税する営業税から、仕入額控除後に課税する増値税への転換など)、支出構造の最適化(民生向上のための支出増を図りつつ、不要な支出は抑制)である。これに対し、公共投資関連については明確な言及がなく、経済発展方式の転換加速という表現も使われていることから、景気対策の観点で支出規模を膨張させたくないとの意向が看取される。
加えて、財政赤字を前年予算実績より500億元圧縮、中央政府による地方債の代理発行も前年比500億元増にとどめており、大規模な財政措置の実施に対して慎重であることがうかがえる。

■地方の規律ある財政運営が今後の焦点に
2012年予算案の段階で積極財政の全面推進に踏み切らなかった背景として、地方財政の抱える問題への警戒感があげられる。地方政府債務全体の17.2%が年内に償還期限を迎える(2010年末時点の債務残高10.7兆元)。これは11年に次いで償還割合が高く、事態の円滑な収束を妨げかねない大規模な財政出動をいま地方政府に求めるのは不適当との判断が中央政府内部で下されたものと推測される。
また、土地売却収入への過度な依存も、積極財政の加速を躊躇させた要因である。政府性基金(特別会計に相当)収入の大部分は地方政府に帰属し、その約9割(2011年)を土地売却収入関連が占める。不動産市場の過熱解消のため、引き締め策を続けているが、これは地方財政基盤の強化という意味では望ましい。仮に、債券発行や中央からの財政移転以外の手法で、地方政府が公共事業を急拡大させる場合、不動産市場引き締め策を放棄せざるを得ず、財政規律弛緩等のデメリットが増大しかねない。
回り道ではあるものの、土地への過度な依存を是正しつつ、経費の伸びを抑制するといった規律ある財政運営を地方政府が行うことが、持続的な成長を図るうえで不可欠と思われる。
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