コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

アジア・マンスリー 2012年3月号

【トピックス】
厳しさ増す中国の加工貿易

2012年03月02日 関辰一


近年、中国では人件費の大幅な上昇により、これまで高成長を牽引してきた加工貿易はその役割を果
たすことができなくなりつつある。

■これまでの発展を支えた加工貿易
中国には、他国に類をみない圧倒的な労働力が農村部にあった。彼らが沿海都市部に仕事を求めて移動することで、沿海部の外資系企業や中国企業は、安価で良質な労働力を容易に確保することができた。欧米という市場、豊富な外国資本、そして安価で良質な労働力が、アジア諸国から原材料を輸入し、沿海部で加工し、欧米へ輸出するというビジネスモデルを可能にした。このようなビジネスモデルは加工貿易と名づけられ、広東省から上海や他の地域に展開することで中国の輸出と投資が拡大していった。
とりわけ、WTO加盟後の高成長は輸出の急拡大によるところが大きい。名目GDPは2000年時点で10兆元にとどまっていたものの、2001年のWTO加盟を機に増加し2005年には約2倍の19兆元となった。一人当たりGDPは2000年の949ドルから2005年には1,732ドルに増加し、人々の生活水準は大幅に改善した。加工貿易を主とした輸出の急拡大が牽引役となった。輸出は2000年の1.6兆元から2005年には6.2兆元へ急拡大した。名目GDPに占める輸出の割合は2000年に16.3%にすぎなかったが、2005年には30%超まで上昇した。そして輸出額のうち5割以上は加工貿易によるものであった。

■上昇する賃金、低下する国際競争力
ところが近年、加工貿易に携わる企業の経営環境に大きな変化がみられる。
沿海部では人手不足により賃金が大幅に上昇し、労働力が安価とはいえなくなりつつある。国家統計局によると、都市部の政府や企業から労働者に支払われた給与(手当て、ボーナスを含む)「平均労働報酬」は2005年時点で1万8,200元であったが、2010年には3万6,539元に達した。この5年間で給与所得は2倍となったことになる。
とりわけ、最低賃金の上昇が顕著である。最低賃金の全国平均は2005年の368元/月から2010年に870元/月へ2.4倍に上昇した。広東省では352元/月から1,030元/月へ2.9倍となった。
こうした人件費の大幅な上昇によって、加工貿易は高成長の支柱としての役割を全うすることができなくなりつつある。もちろん、技術力の向上により国際競争力が上昇した製品もあるものの、労働集約的な産業の国際競争力は低下しつつある。
国際競争力を示す指標としてRCA指数(顕示比較優位指数)が広く使われる。一般的にある財のRCA指数の値が1を上回れば、その財に比較優位があることになる。各産業で国際的な競争の変遷があり、追い越し追い越される重層的追跡が発生する 。
中国の軽工業品の国際競争力は東南アジアに追い上げられ、追い越されるようになっている。中国のアパレル・衣類のRCA指数は2000年の4.73から2010年に3.57へ低下した。世界の輸出総額に占めるアパレル・衣類のシェアは横ばいであったものの、中国の輸出総額に占めるアパレル衣類の割合が低下したことによる。これは他国の国際競争力が相対的に上昇し、中国のアパレル・衣類の国際競争力が10年間で低下したことを示唆する 。実際、ベトナムのアパレル・衣類のRCA指数は2000年の4.11から2010年に6.51へ上昇した。2000、2001年のベトナムの国際競争力は中国を下回っていたものの、2002年に中国を追い越した後、一貫して中国を上回っている。
これはベトナムの労働者の賃金上昇率に比べて、中国の賃金上昇ペースが速かったためである。この結果、ベトナムの人件費の代理指標となる一人当たりGDPは2005年に中国のおよそ37.1%であったが、2010年時点で27.8%に低下した。
中国に比べて相対的に人件費が低下した新興国はもちろんベトナムに限らない。たとえば、バングラデシュでも同様の状況が発生している。一人当たりGDPでみると、2005年時点でバングラデシュは中国の24.8%であったが、2010年には15.4%に低下した。
軽工業製品の国際競争力の低下は、加工貿易を柱とした発展モデルの弱体化を意味し、中国の高成長の足かせとなる。実際に加工貿易に携わる企業の経営実態は厳しさを増している。2011年1~9月の工業企業の赤字企業数は前年同期比9.7%増加した。紡績業の赤字企業数は同19.5%、コンピュータ・その他機械製造業は同26.1%増加した。こうしたなか、中小零細企業は高金利や金融機関の貸し渋りにより、資金調達が厳しく倒産の危機に直面し、とりわけ温州や広東など一部の地域で中小企業の倒産が多発している。加工貿易の伸び悩みを背景に、加工貿易の輸出総額に対する比率は2005年以降低下傾向にあり、今後一段と低下すると見込まれる。中国経済が持続的に発展するためには、成長モデルの転換が求められる。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ